鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
253/590

3'第二次ラファエル前派と中世彩飾写本の出会い19世紀前半の英国絵画において,歴史資料としての写本挿絵の利用は珍しくなく,もたらした。当時彩飾写本の黄金期である後期ゴシックの様式については,初期ルネサンス様式とともに論じられ,時代を潮り次第に関心が高まっていった点に注目しておきたい。写本については,18世紀以来の歴史学の発展の途上,ミニアチュールが歴史書の挿図に活用され,1830,40年代になると,写本そのものの美的価値が高く評価されていくが(注3)'そのなかで第二次ラファエル前派が1850年代に14世紀まで濶る写本への関心を示したことは先駆的であるといえる。特に第一次ラファエル前派作品にはそれが顕著だが,あくまで資料的な利用の段階にとどまっている。対して,第二次ラファエル前派は,第一次ラファエル前派の写実的描写を越えるものとして,彩飾写本の造形原理を選択していったと考えることができる。第二次ラファエル前派の中世美術への関心は,ロセッティを中心に特に1850年代半ばから末にかけて最も顕著に現れる。まず,1856年に,中世文学に造詣の深いロセッティと,オックスフォード大学在学中に中世に対する関心を育んだバーン=ジョーンズ,ウィリアム・モリスが出会ったとき,共通の関心がグループの方向を決める基本方針となる。当時彼らの周辺にはラスキン,バージェスら,写本のコレクターがおり,そのコレクションや,大英博物館をはじめとする公共コレクションが写本研究の対象となった。第二次ラファエル前派において,1850年代末から60年代のはじめにかけての作品は,宗教的主題あるい中世の文学からの主題を扱い,技法は水彩,ドローイング,油彩,壁画,本の挿絵,ステンドグラスのデザインなどの多岐のジャンルにわたる。なかでも,特にロセッティのアーサー王伝説を主題にした作品の空間の表現や構図,そして細部に,彩飾写本からの影響が認められる。また,本稿では紙幅の都合上詳細な説明を省略するが,同時期のロセッティの作品には,アーサー王物語を主題とする作品以外にも中世を舞台とする濃密な水彩作品群があり,明度の高い色彩,平面的なパターンによる背景の処理において,彩飾写本との関係が深い。さらにバーン=ジョーンズの同時期の作品にも同様に,閉じた空間構成,密度の高い画面構成に特定の彩飾写本からの影響が見受けられる。本稿では,ロセッティのアーサー王物語を主題とした作-244-

元のページ  ../index.html#253

このブックを見る