鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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サー王の死への言及に対応する《アーサー王と嘆きの王妃たち》),「南の国のマリアナ」たち》〔図4〕については『湖のランスロ』フォリオ91vとの共通点を認めているが,ここで注目したいのは,王妃たちの一人はこの時代にあっては珍しいことに(注11)画面中心に置かれながら完全に背中を向けており,91vの後ろ向きの騎士との関連を示している。また画面左上の,アーサー王を乗せるために到着した船の配置は,『薔薇物語』フォリオ117〔図5〕に描かれた女王ディドがアエネイアースが船で去ったのを知り剣で自害する場面に倣ったものであろう。このように『薔薇物語』には画面の端に遠景を描いて物語の展開を示す例が多く見られるが,これは写本挿絵によく使われる手法である。「芸術の王宮」に寄せたもう一点の挿絵《聖チェチーリア》〔図6〕(注12)の天使と聖チェチーリアのポーズには,同じく『薔薇物語』のフォリオ83vの《サムソンとデリラ》〔図7]との関係を指摘できるであろう。版画とは左右逆転したペン・ドローイングの下絵〔図8〕では,人物の配置が《サムソンとデリラ》にさらに近い。このサムソンの表情は,人物の表情の変化に乏しい『薔薇物語』の中では異例に印象的なものである。城壁に囲まれた空間は,女性たちが丸い壁を築く場面を描いた『クリスティーヌ・ド・ピザン作品集』のフォリオ290と城の防衛の場面を描いた『薔薇物語』のフォリオ39に見ることができる。この象徴的に作られた城壁の外側には港の遠景があり,ヤン・ファン・エイクの《聖女バルバラ》(1437年)(注12)の背景や,デューラーの《ヨハネ黙示録》(1498年)の遠景を思わせる。また《南の国のマリアナ》等に,ロセッティはデューラーの版画作品から緻密に描かれた家具や道具類を写しとっている(注たせた空間において,もっとも遠くの空間に置いた,したがって小さく描いた対象をも詳細に描きこんだ点を,自作に取り入れようとした。これはデューラー作品に見られる,微細な要素を描き込むという,むしろ中世的な要素に注目したことを示すといえるだろう。の壁画は,アーサー王の生涯の重要な5場面と主要な騎士たちを描く5場面の全10場に1点,計5点の挿絵を描いている(注10)。ファクソンは《アーサー王と嘆きの王妃13)。ロセッティはデューラーが小画面でありながら,透視図法を駆使して奥行きをも5'オックスフォード・ユニオンの壁画およびその関連作品における彩飾写本の影響1857年夏,ロセッティが友人たちと共同で手がけたオックスフォード大学ユニオン-247-

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