る以前の作例である点,別系作として注目される。(三)以上,(ー)に中世浄土系肖像彫刻の造立理由,浄土真宗・時宗に作例が豊富な点,浄土真宗の作例が坐像形式なのに対し時宗では遊行像・坐像・1奇像と変化に富む点などをのべたが,最後に(二)でのべた浄士真宗・時宗の坐像遺作紹介を踏まえ,両宗派系像の相違を簡単にみておく。まず像形式に関しては前述のとおり,浄土真宗系(浄土宗も同様)が碁本的に坐像単一に対し,時宗系は宗祖一遍が立像(遊行像),数は少ないが二祖真教および一部の上人像に1奇像,通例の二祖真教以下の上人像に最も多い坐像の形式が用いられている(近世には宗祖・ニ祖並立々像が出現する)。法量は室町前期までの遺作に関しては,両系とも直接的な存在感のある等身像を御影の基本としたようである。ただ,三重・専修寺親鸞聖人坐像,神奈川・東福寺同像,京都・長楽寺一遍上人立像,愛媛・宝厳寺同像の,両宗祖像が小ぶり像であるのは珍しいといえ,何かの意図を感じる。つぎに,手の形勢,持物であるが,時宗系では合掌形の単ーである。合掌手に賦算札をはさんだ一遍画像や,持蓮華をはさんだ近世の彫像もあるが,基本的には持物を伴わない合掌形ということであろう。これに対し,真宗系では合掌形は神奈川・善福寺伝親鸞聖人像のみで,他像は屈腎して持物を執る。おおきくわけて二通りあり,ひとつは両手で念珠を爪ぐるもので(浄土宗も同様),もうひとつは右手に払子,左手に念珠を執るものである。持物のうち払子は現在真宗の法具には用いられておらず,初期真宗教団において払子の使用があったことは,彫像から知られる事象として注目される。つぎに服制であるか,真宗系で多いのは,内衣の上に着ける法衣が墨染めの衣で,裾部に規則的な衣襲のついた縮衣であることで,このため裳先に折り返しの彫出された像が多い。袖先は,両膝脇に小さくまとめる像(神奈川・東福寺親鸞聖人像),両外に張り出し先端が三角形にはね上がる像(茨城・報恩寺性信上人像など),袖の張り出しか舌状に左右の地にはう像(群馬・宝福寺性1言上人像),袖の左右の張り出しが畳座から垂下する像(三重・太子寺善然上人像など)などのバリエーションがある。また,法衣の襟に帽子(襟巻)を巻く像も親鸞像には多い。これは「安城御影」などの生前-299-
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