注に描かれた親畏画像をもとに,彫像制作が行われたことと関係があろう。法衣の上にまとう袈裟は五条袈裟で威儀をもって左肩にかける。時宗系では,内衣の上の法衣が裳無衣で,愛媛・宝厳寺一遍上人像のごとく明らかな阿弥衣として表された像もある。坐像の袖先は真宗系ほど変化はなく,京都・長楽寺の諸像にみるような袖先を両膝外に先端を円くたわめるように張り出すのが晶本形といえる。時宗系もその上に五条袈裟を着ける。また,時宗系では袈裟の下から脚前に二条,法衣を結んだ帯の端をみせる像が多いが,真宗系ではこの表現はみられない。以上,真宗系と時宗系の中世肖像彫刻の造形上の相違を簡単に述べてみたが,このほか作風面では,時宗系の場合,切れの良い弧状の衣文に特徴をもつ七条慶派仏師の作例が支配的であるのに対し,真宗系では作風にばらつきがあり,洗練度の高い作例がある一方で,やや泥くさい素朴な作例がみられるなどの特徴かある。本研究は,まだデータ収集の過程にあるといってよく,今後も新資料の出現,既存資料の確認,見直しなどを踏まえ厚みのある基礎を構築してゆく必要がある。そのうえで,中世浄土系肖像彫刻の系統を整理し,本質にせまれるよう継続研究をしていきたいと思う。(1) 津田徹英氏らのおこなった東福寺蔵木造伝親翌聖人坐像の実査の調査報告書(2) 松島健「長楽寺の時宗祖師像」『仏教芸術』185(1989) 付記)本研究に関し,浄土真宗関係の参考文献とし『真宗重宝衆英』(昭和63年同朋舎)を主に活用した。また,津田徹英氏には真宗関係肖像に関し,様々な教示をいただいた。(1993)の考察による。-300-
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