た可能性がある〔図4〕。ギリシャにおいても,それと結びつく女神像などに正面向きの顔が多い〔図5〕。「ポトニア・テロンのピトス」の頚部図像の中央の女神もその一例である。そこから,正面向きの顔と女性が結びつくのだと考えられる。そして,明らかに女性である「ポトニア・テロンのピトス」(注7)の頚部図像の中央の人物像と,問題の椅子に座る人物像を,首か違うとして,シェフォルトが区別する必要があるのだと考えられる。ひげは,もしあれば男性である根拠となるが,椅子に座る人物像の顎の先は復元で,私はひげを確認できなかった。短いキトンについては,同じグループの中に類例を見出している点で,シェフォルトの側により説得力がある。次に,椅子に座る人物像の頭から誕生する人物像の問題に移ろう。コントレオンは,この人物像を少女ではなく少年だ,よって,アテナではないとする。その第一の根拠として,この人物像の体の上には何も模様が刻まれず,服を着ていない,すなわち,裸に見えることを挙げる。裸なら,少女ではなく少年だという訳である。第二に,左手に持っている物体が盾ではないことを挙げる。これは,前6世紀のアテナの誕生の図像では,アテナが盾を持つことが多いことをふまえた発言であると思われる。シェフォルトは,これについて発言していないが,ジモンがこれに反論している。模様かつけられないことが,衣を着ていないことと必ずしもつながらない。そのことによって,裸と断定できないし,女性とも断定できないとする。その根拠として,「ポトニア・テロンのピトス」の頚部図像の中央の神の両側の人物の衣に模様がつけられていないことを挙げる。人物像か左手に持っている物体が盾に見えない点について,錘である可能性を指摘し,アテナが槍と錘を持っている例があるとする。模様を表わさないことが,裸を意味しないとするジモンの主張には,難がある。「ポトニア・テロンのピトス」の人物の衣は,模様が表わされていないが,襟,袖,裾など衣と地肌を区切る線が刻まれているのに,問題の人物像では,それに相当するものはない。左手に持っている物体は,錘とも同定しがたい。周りの人物については,前6世紀に多く現れるアテナの誕生の図像タイプとの異同が問題となる。〔図6〕のように,誕生の女神エイレイシャとヘファイストスが付き添うのが,一つの図像タイプになっている。コントレオンは,左下の人物像を女性のダイモーンだとする。そして,もし,中央の人物像がゼウスだとすると,その周りにはヘファイストスかプロメテウスか男性の神がいなければならない。左下の人物像が女性だということは,この場は,女神が支配する場で,対応する王座の神も女神である-323-
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