鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
345/590

vヽ゜写真と比べてみると,愛宕山の特徴的な山頂をはじめ,周辺の景観の特徴をとらえ3.実景との関係ー構図の特色古今集から新古今集までの,いわゆる八代集に歌語として読み込まれた山である。また,選ばれた山の多くは古くから霊山として信仰を集めた山である。『名山図譜』での山の選択基準は,高さや規模か最優先されたのではなく,古くより和歌の歌語となった山,霊山として信仰を集めた山が中心となっていることがわかる。また,それらの山の多くは,五街道や脇街道のような主要な道から,眺めることのできた山でもあった。さらに,当時は日本の地理に関して,かなり正確な情報か入手できる時代であったことが,蝦夷から九州まで,はは‘日本全土を対象とすることを可能なものにした。橘南裕の『東遊記』にも名山として二十七の山かあげられている。そのうち『名山図譜』にも選択されている山は,巌木山(岩城山),巌鶴山(磐手山),鳥海山,筑波山,富士山,白山,立山,駒嶽,御嶽,騰吹山(伊吹山),彦山,雲仙岳,阿蘇山,霧島山,桜島の十六の山である。『名山図譜』掲載の九州の五つの山は,すべて南硲の選択した九州の八つの山(五山に久住山,姥が岳,開門岳が加わる)に含まれており,南硲の選択を参考にしたのかもしれない。だが,それ以外では異なる選択も多く,『名山図譜』の独自性が認められる。『名山図譜』のそれぞれの山は,どのように描かれているか。たとえば,京都の愛宕山では,広沢の池の対岸の遠景に,なだらかな稜線の愛宕山が抽かれている〔図1〕。対象となる山だけを描くのではなく,周辺の景観まで取り込むことで横への広がりがもたらされて,また,近景の池の岸辺に樹木や人物を配することで,奥行きある画面構成となっている。これら景観の遠近大小関係は,緊密に構成されており違和感はなた描写となっていることが確認できる〔図2J。また,広沢の池の端から,まさに視界に入る限りの広い範囲が凝縮されて描き込まれていることが観察される。一方,視点は人の立った高さより幾分高い位置に置かれ,前景,中景,遠景が積み重ねるように,実際よりもかなり高さが強調されて描かれている。構図における,景観の凝縮,緊密な構成および高さの強調が特色として指摘できる。だが,愛宕山のように実景に忠実な図ばかりではない。実景をかなり変形させた図336-

元のページ  ../index.html#345

このブックを見る