鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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4.グライフスヴァルトのヤコブ教会「卵形の空間の設計図」(平面図,ペン,淡彩,11.OcmX 12. 0cm) ここでは,楕円形の礼拝堂が構想され,東に塔を伴った簡素な集会堂に,ゴシックの要素はわずかである。むしろ,完全にバロックの様式を示す屋根窓など,建築家であった師クヴィストルプの特徴が認められる。この悪天候に備えた礼拝堂で,フリードリヒは,自然の要素を巧みに取り入れ,野外で礼拝を行なうために,楕円形の礼拝堂に連続して,同じ楕円形を反復して植樹された林苑を構想した。この建築として構想された林苑に,『雪の修道院墓地』で廃墟を取り巻いている,枯れた棚の木立の原型を見ることができる。フリードリヒは,『雪の修道院墓地」の新ゴシック様式の内陣を構想するのに,グライフスヴァルトのヤコブ教会の内陣に基づいて制作した。また,『廃墟としてのマイセンの聖堂』でも,現存するマイセンの聖堂を基にしたように,彼が新ゴシック様式の教会を描く際には,実在する教会がその基礎となり,あるいは,教会像を形成する上で影響を及ぼしたと考えられる。ここで,実際に描かれた教会を検討することで,どのような教会が画家によって望まれたか,教会建築において何が重視されたかが,明らかになる。画家の故郷グライフスヴァルトには,ヤコブ教会の他に,ニコライ教会,マリア教会の3つの教区教会がある。これらのうちで,最も重要であり,フリードリヒとも関わりがあるのはニコライ教会であるが,『雪の修道院墓地』では描かれなかった。この点については,ヤコブ教会の内陣が,半円形に張り出したアプシスを備えていることが重要だと思われる。このアプシスの部分は,ヤコブ教会の東南から見た外観を描いた,1815年のデッサン(オスロ,ナショナル・ギャラリー所蔵)にも示されている。マイセンの聖堂(アルブレヒツブルク城教会)も同様のアプシスを備えているが,ニコライ教会とマリア教会は,アプシスが張り出していない。また,ヤコブ教会,マリア教会,それにマイセンの聖堂は,側廊を身廊と同じ高さにしたハレンキルヒェであり,その内部空間は,統一感を保ちながらも,広がりを感じさせるものである。このような教会建築を望ましいとする見解が,聖マリア教会の内部装飾,フィッテの礼拝堂の構想図,さらに『雪の修道院墓地』の根底にあるように思われる。この点については,今後の課題としたい。-363-

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