鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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⑰ 絵画作品における「田園」の主題について_和商節二の世界から―研究者:島根県立国際短期大学専任講師八田典子1.はじめに和高節二(1898-1990年)は広島県高田郡向原町の農家に生まれ,生涯のほとんどをこの地において送り,制作を続けた日本画家である。主な作品は広島県立美術館に所蔵されているが,それらには田園を基盤とした和高独自の力強い芸術世界が展開されている。筆者は和高最晩年の4年間,直接その人となりに触れる機会を得,方言そのままに朴訥に語られる芸術観や人生観に強い印象を受けたこともあり,この作品と人との出会いから,芸術創造の基盤としての田園の意義と可能性に関心を寄せることとなった。本論では,和高芸術の特質を広く日欧の関連作品の系譜の中に捉え直すとともに,和高にとっても重要な存在であったミレーをはじめとする田園を描いた画家たちの作品世界に注目して,絵画表現における「田園」の在り方と意義を追求してい2.和高節二の世界和高の生涯については以前の研究論文において詳述しているため,ここでは割愛し,特に興味深い作品と言葉を以下に挙げて,その芸術世界の特質を見ていくことにする。・作品《田植え時》(1929年<昭和四年〉,第10回中央美術社展入選,〔図1〕)田植えの合間の授乳のひとときを描いたものである。赤ん坊にではなく前方(恐らく水田)に注がれた母親の眼差しには労働の渦中にある人の厳しさがある。全体に硬さの感じられる表現ではあるが,このような厳しさ,硬さのゆえに,山里の空気の清澄さや彼らの前に広がっているであろう水田のきらめき,一瞬の緊迫感を捉えることによって照射される田植えの活気と動感がよく伝えられている。モデルは画家の妻子である。《村の子供》(1935年<昭和十年〉,〔図3〕)黒いゴム長靴をはいた普段着の少年少女4人が直立して,じっと前方を見ている。表清は厳し過ぎずやさし過ぎず,立ち姿も気負わず自然体。子供が4人立ってこちら-419-

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