を見ている,ただそれだけの絵であるのだが,日常の中にある普遍性が力強く表された,堂々とした作品である。田園という環境で,自然に抱かれて生きる人間の強さや健やかさ,風格といったものが,真っすぐに伝わってくるように思える。モデルは画家の子供たちである。《秋日和》(1938年<昭和十三年〉,第1回現代美術展入賞)や《仔牛と村女》(1939年,第26回院展入選),《牡牛(こっとい)》(1940年,紀元2600年奉祝日本画大展覧会最高賞受賞)など,和高の作品には牛を描いたものが少なくない〔図4〕。「自分は農民であり,牛も飼っていた。牛は農家の宝。農村の偉大さ,健康さ,力強さを表現するのが農村に住む絵描きの仕事であり,牛を描くことによってそういうものが作品の中に出てくれれば」と和高は語っていた。この言葉にもある「農村に住む絵描き」としての使命感は,和高の生涯の支柱であったが,これには,若き日に感銘を受けたミレーの影響がうかがえる。和高は少年時代にロマン・ロランの『ベートーベンとミレー』(加藤一夫訳,大正四年洛陽堂刊)を購入し,「風呂をたくにも山へ行くにも,懐へ入れて,見て」,ミレーから「絵描きとしての生き方」を教わったという。・画家の言葉「とにかく健康なものの中から,すっと,こう,出て来た作品でなかったら,いけんと思う」「猫の声が聞こえ,鳥の声が聞こえ,そういう生きとるもんの,自然の声が聞こえなかったら,いけんと思うのよ。そういう声が聞こえて初めて,人生があると思うの」(注1)「夜道を歩いているとの,すべてのものが闇に消されての,わしの心と空が一つに結ばれるんよの,そのときの,大自然が,わしの心の中にとびこんでくるのよの,雪でも降っていてみい,最高よう,うっすらとのう,夜目にも白くのう,みんな天につながるんよ」「冬の厳粛が私はすきで御座居ます。どっしりと黒い大きな山脈が,うす化粧してはるかに横たわるのを遠くから見るのがすきで御座居ます」(注2)このような言葉からうかがえる和高の「自然」は,穏やかであり,恩恵的であり,自らと常に調和的な関係にあるものである。さてここで,和高芸術の特質を次のようにまとめておきたい。日常世界の親しみ深いモティーフを描きながらも,日常を超えた普遍性や浄化され-420-
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