鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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だらかな山懐に抱かれた家々が見える。・《夕顔棚納涼図屏風》(久隅守景,17世紀,〔図7〕)軒先の夕顔棚の下で寛ぐ親子。人間味あふれる田園風俗の描出である。同じ作者に《四季耕作図屏風》もある。中国の勧戒画の伝統に連なるものと言えるが,描かれているのはいかにも日本的な田園風景である。・《冨嶽三十六景尾州不二見原》(葛飾北斎,1831年以降)桶職人の背後に広がる田野が,景色の広大さ,のどかさを強調。遠く木々の上に小さく富士が頭をのぞかせている。・《収穫》(浅井忠,1890年)農村の日常をそのままに描く。洋画表現による日本的主題の追求。・《樹陰》(黒田清輝,1898年)緑地に横たわる村娘。自然の中に身を横たえる女性像は,西洋美術のお馴染みのモティーフでもある。・《長野風景》(河野通勢,1915年,〔図8〕)緑濃い夏の農村風景の中に,水遊びをする少年たちの姿が描かれている。少年たちの表情や姿態には野性的な趣がある。・《洛北修学院村》(速水御舟,1918年)なだらかな山の麓に,木々に包まれるようにして在る農村の1守まい。全てが青い影を帯び,水底のような静寂が漂う幻想的な情景である。西欧の作品・《リウィアの別荘壁画》(前1世紀末頃ー1世紀前半,ローマ)自然観照的な庭園画。実をつけた果樹,鳥,花々がかなり写実的に描かれている。・《善政と悪政》(ロレンツェッティ,1338-40年頃)善政と悪政の効果を風景として対照的に表現。都市とともに田園も大きく描かれた。・《ベリー公のいとも豪華なる時藤書》(ランブール兄弟,1413-16年頃)12ヵ月のそれぞれを,季節感豊かな風俗画として描く。農民たちの姿を捉えたものが多い。・《サン・ロマーノの戦い》(ウッチェロ,1456-60年,〔図9〕)戦いの背景に田園風景が広がる。数人の騎士の姿もあるが,前景の密度の濃い戦いの場面とは対照的にのどかさの漂う空間である。・《美しき女庭師》(ラファエロ,1507年)聖母子と聖ヨハネが,遠くに家並みの見える緑野にいる。ラファエロをはじめ,ルネサンス期の画家たちは,主題の背景として温和な風景をよく描いた。-422-

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