• 18世紀はロココの時代。庭園を舞台としたヴァトーの甘美な雅宴画が時代の雰囲気・《田園の奏楽》(ジョルジョーネ,ティツィアーノ,1510-11年頃,〔図10〕)牧歌的理想郷。《眠れるヴィーナス》(ジョルジョーネ,1510年頃)も類例。・《イカロスの墜落のある風景》(プリューゲル,1556-58年頃)前景に大きく,耕作する農夫。そのやや後方に羊飼い。彼らの背後の海では,人知れずイカロスが溺れていく。ブリューゲルには農村を題材とした作品が多いが,彼の主眼はそこを舞台に,諺や教訓に集約される人間界の有り様を表現することにあった。・《アルカディアの牧人たち》(プッサン,1638-39年)牧歌的理想郷にも死があることを意味する碑文を読む牧人たち。17世紀には,プッサン,クロード・ロランによって,古代世界を想定した理想的風景が盛んに描かれた。・《大きな樫の木と麦畑の丘》(1650年代前半)など,ロイスダールの諸作は,穏やかなオランダの田園風景を伝える。この時期のオランダでは,風景が,主題の背景から主題そのものとなる。をよく伝えている。世紀後半にはルソーの影響により,自然を重視し田園生活に憧れる傾向が強まった。マリー・アントワネットがヴェルサイユに造らせた「村里」もその現れである。・《乾草車》(1821年)など,カンスタブルの諸作。この時期フリードリヒらもロマン派的抒情漂う田園風景を描いている。以後19世紀においては,ミレー,印象派,ゴッホらによる,それまでにないほどの力強い「田園」の系譜を見ることができる。このことについては章を改めて考察する。さて,上記のような関連作品を通覧してまず確認できることは,日欧ともに近代以前においては,実際の「田園」そのものが絵画の主題とされることは稀であったということである。「田園」は古くから描かれてはきたが,ほとんどの場合,主題(神話や歴史,宗教上のエピソードや人物,物語)に奉仕する背景や舞台としてであり,架空の理想郷として描かれることも多かった。これは「田園」に限らず,絵画表現における風景の在り方として言えることでもある。理想郷についてもう少し言い足せば,日本においては神仙思想や老荘思想,西洋においては東方起源の楽園への憧憬が根強く継承され,反映されてきた。このような傾向は,自然状態から文明を生み,多かれ少なかれ人工的な環境に身を置かざるをえない人間の普遍的な心情の現れといえよう。その上で見えてくる日欧の違いは,H本では自然そのものに重きを置き,人の生はそ-423-
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