「弘法大師行状絵詞」系統一東寺本比較の詳細は別稿に譲ることにして,ここでは各事蹟ごとに場面内容を略記し,比定の根拠として,これに最も近似する図様を持つ作品を挙げておく(<表1〉参照)。ー事蹟が数場面からなる場合は,順に①②…の番号を付す。事蹟名称には,ここで挙げる絵巻作品の事蹟名称を流用するが,適宜変更を加えることがある(注9)。では,第一幅から順に見ていこう(〔図1〜図8〕参照)。く第一幅〉1「誕生霊瑞」大師の母が聖人の飛来を夢に見る場面。室内で眠る母,僧形の聖人,庭の二匹の犬は東寺本に近い図様であるが,庭木に鶏が止まるモチーフは地蔵院本および白鶴美術館本に見られるものである。2「童稚奇異」①夢で諸仏と語る,②泥士で仏像を作る,③童堂を建てて仏像を安置し礼拝する場面。いずれも東寺本に近いが,①は左右反転したような図様である。3「四王侍衛」①勅使が四天王を従えた大師を礼拝する,②勅使が父母の家を尋ねる場面。①は四天王を一体だけに省略するが,大師のポーズは東寺本に一致する。②を描くのはA本と久松家旧蔵本だけであり,浄土寺本の図様はA本の方に近い。4「俗典讃仰」①阿刀大足に俗典を学ぶ,②愧市に交わり味酒浄成あるいは岡田博士に学ぶ場面。ともに東寺本に近い図様である。東寺本では,この間に馬に乗って上洛する場面が描かれており,①が上洛前,②が上洛後であることが明らかである。5「出家学法」石淵の勤操に会い,大虚空蔵ならびに能満虚空蔵等の法を受ける場面。東寺本から勤操と大師だけを取り出し,簡略な構造の建物の中に入れたような図様である。6「出家受戒」勤操に従って剃髪し,出家する場面。戸外の松は別として,人物配置や室内の様子は個人蔵本にほぼ一致する。7「明星入口」①土佐室戸崎で明星が口の中に入る,②その明星を海に向かって吐き出す場面。諸本相似た図様であるが,大師を二度描くのはA本だけである。8「天狗降伏」①金剛定寺に出没し法難をなす天狗と問答をする,②自らの形代を楠の洞に安置する場面。①は個人蔵本に極めて近い。②も個人蔵本に近いが,左右反転し,個人蔵本の大師の手にある刀と形代を省略する。9「我拝師山」讃岐国屏風浦で釈迦如米の影向を見る場面。東寺本も相似た図様でと称する)-434-
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