あるが,釈迦が正面向きで周囲に桜花が咲いている点まで一致するのは個人蔵本のみである。10「魔字品事」伊豆国桂谷で虚空に魔字品を書く場面。個人蔵本にほぼ一致する。11「久米東塔」大和国久米寺東塔から大日経を発見する場面。塔の表現も含めて,個人蔵本によく相似する。ただし個人蔵本は大師を二度描くが,浄土寺本はその第一場面を省略する。く第二幅〉1「渡海入唐」遣唐船に乗り,大使藤原賀能とともに唐に渡る場面。これに一致する図様は諸本の中には見当たらないか,強いて言えば,船の形は東寺本に近い。2「大師替書」①福州に漂着し,大使か州長に書を送る,②州長は書を打ち捨てる,③大使に代わって大師か書を書く,④州長に書が受け入れられる場面。海上の空船や岸に近づく小舟,四場面それぞれの人物配置はいずれも東寺本に近い。ただし④は左右反転している。3「長安奏聞」借屋を設け,大使,大師らをもてなす場面。東寺本に近い。4「長安入洛」長安に入城する場面。東寺本3-4「存問勅使」の末尾にも同様の場面が描かれているが,浄土寺本の図様はA本の方に近い。5「宮中壁字」①唐帝の勅命により宮中の壁に字を書く,②唐帝より菩提子の念珠を賜わる場面。東寺本に近い。6「流水点字」①童子に勧められて虚空に字を書く,②童子も虚空に字を書く,③童子が流水に「龍」の字を書く,④童子が打ち忘れた点を大師が打つと,文字が真龍となる場面。龍の体勢は異なるが,大師と童子の表現はA本にほぼ一致する。く第三幅〉1「在唐入壇」①青龍寺の恵果和尚に拝謁する,②灌頂後に行われた斎供の場面。この二場面を描くのはA本,東寺本,フリア美術館本のみである。①はA本を左右反転させた図様に近く,②も強いて言えばA本に近い。2「珍賀懺謝」①大師の受法を妨げようとした玉堂寺の珍賀は四天王に降伏される夢を見る,②翌朝,大師の許に参り,謝罪する場面。①は,珍賀と四天王の姿態が諸本で異なるが,珍賀の下に敷物がある点はA本とのみ一致する。②は東寺本に近い。3「恵果附属」恵果から法具を授かる場面。東寺本を左右反転させた図様である。4「恵果入減J恵果入滅の場面。東寺本の一部を省略した図様である(注10)。435-
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