鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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2「神泉祈雨」天長元年仲春の旱魃のとき,神泉苑で請雨経法を修する場面。東寺く第四幅〉く第五幅〉5「多生誓約」恵果入滅の夜,大師の前に恵果が現れる場面。東寺本に近い。6「三鈷投所」①唐を離れる前に,日本の方に向かって三鈷杵を投げる,②三鈷杵が雲に乗って飛んでいく場面。諸本とも類似性のある図様であるが,強いて言えば,大師の姿と浜辺の様子はA本に近く,大師後方の俗人は東寺本から抄出したモチーフである。1「帰朝奏表」帰朝後,請来目録を太宰大監高階真人に託す場面。人物は東寺本に一致するが,門と建物の位置関係,および門の部分は左右反転している。2「大内書額」応天門の額を書くとき,打ち忘れた点を打つために下から筆を投げ上げる場面。東寺本の一部を省略した図様である。3「心経講讃」①宮中で般若心経の秘鍵開題を行う,②人々が蘇生する場面。①は東寺本にほぼ一致するが,A本も近い図様である。②はA本から一部を抄出した図様である。4「清涼宗論」清涼殿での論争の時,即身成仏を具現した大師を人々が礼拝する場面。東寺本の一部を省略したような図様である。ただし,東寺本の大師は金色の大日如来として描かれるが,浄土寺本は僧形のまま宝冠を戴く姿を描く。5「伝教灌頂」灌頂を受けるために伝教大師が高雄寺を訪れる場面。この場面を描くのは東寺本だけである。6「参詣御廟」河内国上宮の聖徳太子廟で,阿弥陀三尊の影向を拝する場面。A本に近いが,浄土寺本は太子の廟窟の部分を省略している。逆に,満月を描くのは浄土寺本だけであり,大師伝絵巻諸本の中には見当たらない。7「久米講経」大和国久米寺で大日経を講じたとき,神祇が姿を顕し聴聞する場面。東寺本に近いが,浄土寺本は画面左方の霞の中に塔の最上層の屋根と九輪を添え,ここが久米寺であることを暗示する。1「講堂起立」①天長二年,東寺の講堂を建築する場面,②完成した講堂。この二場面に対応する内容を描いているのは東寺本だけである。①は図様を異にするが,②はほぼ一致する。本の冒頭と末尾を省略した図様に一致する。-436-

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