5「堂塔草創」金堂を建立する場面と完成した大塔。東寺本にほぼ一致するが,三く第六幅〉3「正月修法」①承和二年正月,宮中で後七日の秘法を修する,②深草天皇に拝謁する場面。①は東寺本に焚き火を囲む四人を加えた図様である。②の図様は大師伝絵巻諸本の中に全く見当たらないものであるが,御簾の中の人物が①と同じ表現であることから一連の場面と見なした。なお大師の衣については,②の檜皮色が通常あるが,①の色が異なるのは先の「神泉祈雨Jと同様に修法のための正装と思われる。1「高野尋入」弘仁七年孟夏のころ,山中で猟師に会い,紀伊国伊都郡に霊地があることを教えられる場面。地蔵院本,白鶴美術館本も相似た図様であるが,最も近いのはA本である。2「巡見上表」猟師の犬に導かれて山を登る場面。A本に近い。3「丹生託宣」山玉丹生大明神の杜に一宿し,託宣を受ける場面。A本に近い。4「高野結界」①高野に伽藍を建立するとき,唐から投げた三鈷が松の棺に懸かっているのを発見する,②地中より宝剣を掘り出す,③掘り出された宝剣を見る場面。東寺本の一部を省略したような図様である。鈷松と御影堂は省略されている。また,金堂と大塔の位置が左右逆になる。6「真影図画」真如法親王が描いた大師の御影に,大師自ら眼精を点じる場面。東寺本にほぼ一致する。7「南山入定」①承和二年三月二十一日,高野の庵室で入定する,②御輿に乗せて運ぶ,③石段を畳み,その上に五輪塔を立てる場面。①にはやや省略があるが,いずれも東寺本にほぼ一致する。8「官位追贈」天安元年十月,大僧正の官を,また貞観六年二月,法印大和尚の位を贈られるという事蹟のうち,どちらかは不明であるが,勅使が奥の院に参拝する場面。奥の院に誤って多宝塔を描くのは,東寺本に見られるモチーフである。9「大師詮号」醍醐天皇が夢想により,大師に檜皮色の装束ー襲を贈るという事蹟で,①勅使が装束を高野に運ぶ,②観賢が大師の髪を剃る,③観賢が淳祐の手を取り大師の膝に触れさせる場面。①③は東寺本ほぼに一致するが,②に対応する場而は東寺本では描かれていない。②は地蔵院本および白鶴美術館本の図様を左右反転させたものに近い。-437-
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