の時刻,明と暗,動と静,右と左,そして日月など陰陽五行説と結びついた自然表現と,文学的ないし歴史的根拠があるものに大別でき,それらが組み合わされている場合が普通である。たとえば,「琴棋書画図」四幅対は,東京固立博物館本,徳川美術館本とも,琴棋書画という士人の遊びと,四季の自然表現さらには唐十八学士図という歴史的に著名な画題が重ね合わされている。十八学士図とは唐太宗の命によって閻立本が描いた図で,絵画史上の著名な故事として知られていた。その原本は現存しないが,南宋の劉松年筆と伝える画巻が台北・国立故宮博物院に蔵され,18人の学者が古典を校閲する様を描いた図は,琴棋書画図と基本的な構成が共通する。四幅対に高士を描いて合計18人という人数は,4の倍数でなく,何か根拠がなければ不自然であることからも,上記の琴棋書画図は唐の十八学士図を踏まえているのは間違いない。しかし,同時に四季表現を伴っていることは唐十八学士の故事と矛盾しており,この琴棋書画図の成立は複雑な問題を抱えている。山水画として分類される対幅の図も,その人物に着目すれば,故事や詩文に依拠した図が多い。明代の「四季山水図」四幅対(彦根城博物館蔵)や謝時臣筆「四傑四景図」四幅対(静嘉堂文庫美術館蔵)などは具体的に人物とその逸話が指摘できるし,先述の金地院・久遠寺の三幅対は,特定することは難しいけれども詩文と密接な関係にあることはこれまで論じられてきた通りである。対幅画を構成する上で基本となるのは四季表現であり,絵としての見所は各季節の描き分けにあるといえる。四季表現は北宋時代には完成されていたことは,11世紀後半に活躍した郭煕が残した画論書『林泉高致集』からも読み取れ,南宋時代以後の画家にとっては画事のいろはであったといえよう。とりわけ皇帝に仕える宮廷画家は,伝統を踏まえ,正確に各種の花を描き,自然現象を捉えた。その成果が呂紀の「四季花鳥図」四幅対(重要文化財,東京国立博物館蔵,〔図3〕)で,装飾性と写実性が高度に融合したこの四幅は,対幅が備えるべき各幅の対比や共通性を実現した傑作で,四季花鳥図はこの図に尽きるといってもよい。対幅形式の意味通常の掛幅画は一幅のみで制作され,鑑賞されるのに対し,わざわぎ対幅の絵画として複数幅を作る理由は何であろうか。-461-
元のページ ../index.html#470