鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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@ 日本の美術館における作品保存のための環境管理について研究者:愛知県美術館保存担当学芸員長屋菜津子本題に入る前にまず,美術館における保存担当学芸貝の仕事と研究の内容について述べたいと思う。この職種に対し,修復家と混同されるのが現在の日本の状況である。では保存より修復の方が理解され易いというのなら,この修復という言葉をあえてキーワードにして説明すると,「いかに修復するべきか」と「いかに修復しないですむようにするか」が主な研究と活動目的である。本稿はこの2番目の課題をテーマとするが,この問題を突き詰めてゆくと,その手段の段階で「環境管理」の問題にぶつかる。今日愛知県美術館を始めとする日本の多くの美術館がかかえている「作品保存のための環境管理の問題点」を海外ではどのように取り組んでいるのかということをこの拙稿で検討したい。作品保存にかかわる環境の主な要素は「光」「温度湿度(気候)」「大気汚染(空気成分)」であるとされているが,今回の検討では「光」を除く「温度湿度(気候)」「大気汚染(空気成分)」に絞ることとする。この2つの問題の各美術館においての具体的な方策は,空気調和設備(以下空調設備という)と清掃業務ということになるに違いない。そこでここではまず,現在の日本の美術館において空調管理と清掃業務のあり方が有する問題点を述べる。そしてそれらの問題に対し,改善解決の業務を分担している美術館職員は組織上どこに所在するのか海外の美術館の実情を探り,日本のそれと比較したい。愛知県美術館は根本的な保存対策を段階的に整備し,保存担当学芸員の日々の活動内容を実践記録として館の研究紀要に数回に分けて報告している。今回この問題を取り上げざるを得なかった具体的経緯については,その報告の第一「愛知県美術館の保存対策その1」も参照していただきたい。空調設備はそもそも人間が快適に生活するために作られたものである。今回のテーマである保存環境とは,作品にとってもっとも望ましい人工的な環境のことを指す。ギャリー・トムソンは作品生命を「作品が自然な環境の中に置かれたときのその物理的な形状生命」とした。しかし作品は美術館のような特殊な空間で管理1 空調管理における問題-465-

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