される場合を除いても,今日の人間の生活環境である人工的な環境に置かれることは間違いない。では,この人工的な環境に置かれた作品は本来の作品生命より長い生命を持てるのだろうか。それとも短いのであろうか。人間にとっで快適な環境と作品にとっで快適な環境が異なるものであるとは言わないが,残念ながら今日我々保存担当学芸員が懸念し,日々解決を迫られている問題の多くは,人間のために作った環境が生み出す副産物的な環境が作品に及ぼす影響である。このことは建築,工学,科学の発達とともに人間の欲求を満たす環境がより高度に発達変化する以上,常に埋まらぬ問題として残存することを指し示す。高度な技術を用いて作られたインテリジェントビルは,日本家屋では起こらない超自然現象的な気候を生み出す。それを観察し,そこに生じた問題を検討し解決策を見出してゆくのは誰なのだろうか。この問題はやはり技術者(engineer)の空調についての専門的な知識がなくては難しい。ところで今日の空調設備は同じく高度に発達したコンピューターによる自動制御のおかげで一般のビル管理の範囲において,技術者を必要としなくなっている。愛知県美術館のあるビルにおいても,中央監視室で空調設備を監視する人達の役割は,「決められた設定」と「決められた運転時間」を設定し監視するオペレーターの役割でしかない。美術館に空調専門の技術者が登場するのは,当初の設備建築の場面と定期点検と故障時に契約会社から臨時に派遣された時のみとなる。従って上記に「決められた設定」と「決められた運転時間」等と述べたがこれらを決定するのも,その結果生じる問題を観察し問題点を突き詰めてゆくのも,技術者不在の美術館においては保存担当学芸員ないしは学芸員ということになりかねない。事例毎に統計を取り,解決策を見いだして行く技術者の仕事を無視したままで美術館運営を行っていってよいものであろうか。またこれらを保健所の指導による日本の「ビル管理法」の範囲に収まっているという理由で放置していてよいのであろうか。大気汚染はなにも屋外だけの問題ではない。この問題はちりや埃といった展示室や収蔵庫内において日常的に生じている問題をも含むからである。これらについての対策を「清掃」という名称で位置づけるには問題があるが,他に適当な用語がないのでこの名称を用いる。展示室や事務所など,日ごろ人の出入りの多い場所の清掃を開館当時から計画的に配置していない美術館はないに違いない。ところが収蔵庫の掃除や2 清掃業務における問題-466-
元のページ ../index.html#475