鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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ワシントン,フィリップスコレクションconservatorとregistrar,それぞれ一人づつから話を聞いた。主な質問事項と回答そしてその回答を与えてくれた人の館内での職種を別表にまとめる。そして比較検討のため,愛知県美術館の保存担当学芸員が日常業務の中で把握している知識を併せて入れた。愛知県美術館の組織と比較してみる。愛知県美術館の施設管理は総務課が行っている。そして実際に中央監視室において制御管理を行うのも清掃を行うのも委託業者であり,美術館博物館を専門とするものではない。そしてそこに日々の指令を出す総務課は定期的に人が入れ替わる愛知県の一般的な行政職員である。学芸貝からの要望は基本的には書類上の形式でこの総務課を経て各所へ伝えられる。委託業者との契約条項の問題も絡むからである。当然契約会社にはどのような種類の決定権も改善計画その他を立案する権限もない。日本の多くの国公立の美術館がこの方式を取り入れているに違いない。一方アメリカで事情を聞いた美術館は空調管理を行う職員も清掃業務にたずさわる清掃職員も正式な美術館職員であり,採用から解雇まで職場変更は基本的にはない。目的に応じた技術,知識を蓄積し,改善の案を立てることはできる。ではこれらの組織の作り方の差がどのような問題を生じさせているのであろうか。それはまずもって意識の差である。例えば愛知県美術館のこの職にある人々が無責任であるというようなことは決して思わない。彼らは着任の時に任された責任の範囲で申し分なく信頼できる人たちである。しかし,空調についても清掃についても目的は「人のための空調,清掃」から一向に変わらないのである。こと空調管理に直接たずさわる人々は,オペレーターとしての責務だけを要求された立場であるからなおさらである。従って美術館の特殊性に正面から取り組むのは学芸員と保存担当学芸貝のみということになる。アメリカのengineerの美術館博物館の空調設備の勉強は就職後に始まる。先輩から4 愛知県美術館との比較及び考察4-1 組織の比較4-2 意識の差-468-

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