•そのかたわらで手を打つ男児(下巻)『融通念仏縁起絵J,『石山寺縁起絵』の比ではない。それは,『福富草子』に登場する主な人物たちがほとんどすべて本図に再登場する,と称しても過言ではない程である。それら借用関係にあった図様のいちいちについて述べる余裕もないため,ここでは一括してその図様名を挙げるに留める。なお図様名に付した「上巻,下巻」は,典拠となった図様の『福富草子』での所在である。まずは右隻。第二扇・頭に荷籠を乗せた女(〔図6〕上巻)•前屈みになって荷作りする男(〔図7〕下巻)次に左隻。第四扇・杵で米を掲く女たち(〔図8〕下巻)・稲穂片手に足を踏み踊る男(上巻)第五扇・リズムを取って手を打つ女児(下巻)・子を肩車する男(上巻)・子を右脇に抱く女(上巻)・箕を持つ老婆(下巻)・屋内より立て膝をして外を見る男(下巻)などである。まさしく本図は画面全体に『福富草子」の図様をちりばめたものであった。これ以外にも,本図が「四季耕作図」である以上,浸種や耕起,灌漑,収刈,入倉など,基本的な農作業を表わした図様については,南宋の画家梁楷が描いたとされる,この種の古典的作品「耕織図巻」(模本が東京国立博物館に所蔵される)を参考にしていることは云うまでもあるまい。ただし,その際,日本風俗をまとわせたり,人物の組合せや姿態に一部改変の手を加えている。以上,本図に描かれた各図様の典拠を求めてみた。その結果,主な登場人物はほとんどが,その図様に何らか典拠のあることが判明した。となるとごく素朴な感想だが,では本図で果した晴川院の仕事一その創造的な役割りとは,一体,何であったのだろ-489-
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