鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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5.本調査研究のまとめと今後の課題間をつけて束を立て格狭間状に区画をもうけたもので,現状ではほとんど剥落しているがもとは沃懸地螺細荘であったものである。①は格狭間内に宝相華唐草文を透彫りで表した金銅板を嵌め,天板と桓の側面の要所には八双金具を,四脚には沓金具を付している。天板や桓の側面に部分的に沃懸地かのこり,脚部には大体彫りの痕跡がある。格狭間の透彫り金銅板の宝相華唐草文の意匠や表現技法は,(2)の華墟の②ないしは③に通有の気分をうかがうことが可能である。②は天板と四脚が当初で,欄間は新補されたものである。束に蕨手と若芽形を組み合わせた螺細が遺存している。これら3基の案に関しては保存状態から比較しにくい面があるが,3基ともほぼ同じ大きさながらも鷺脚や束の形状,大体彫りの痕跡の形など,その細部の表現や技法には相違点が認められることは重要で,これら3基が全く同じ時期に一具として調製されたというよりは,いまその順序を明確にはしえないものの,ある程度の時間差をおいて順次調製された可能性の方が高いとおもわれる。剥落が著しい現状にある。柱と架木の接続部,柱の根巻部分,架木の蕨手先に魚々子地に宝相華文を薄肉彫りで表した金銅製金具を付している。磐架は礼盤の右脇に置いて磐を打ち鳴らすための仏具であるが,本品の装飾金具の意匠表現と制作技法を見る限りは(4)の礼盤と一具をなしていたとは認めがたい。なお本磐架付属の孔雀文磐は,全体に薄手で股入りが穏やかな姿や,撞座の蓮華やその左右に配された孔雀の文様表現には平安時代の趣向がよく感じられる。前節までに棲纏述べてきたように,今回の調査研究では,中尊寺金色堂堂内荘厳具に関して実地調査を行ない,それによって得られた基礎的データを基に考察をすすめた。その結果,金色堂所用の寺伝を有する荘厳具のうち,天蓋,華覧,幡頭,螺細平塵案はいずれも文様意匠や表現,制作技法の上からみて明確に3種類に分けることができた。このことはそれぞれの荘厳具の調製の時期が3期にわたってなされたことを示していると考えられ,金色堂堂内の三つの須弥壇すなわち中央壇,西北壇及び西南壇の造営経緯の問題を考える上に重要な事実関係を提示するものと思われる。また礼盤や磐架に関してもそれが一具のものではないことは,これらの調製時期にも時間差があったと理解することが可能で,このことも三壇の造営経緯に年代差を認めること(6)の磐架は(4)の礼盤と同様にもとは金平塵に螺細を飾ってあったとみなされるが,-506-

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