鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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書1名,美術教育担当者1名が標準の構成であろうか。図書資料部門は組織が大きく欧米の美術館の研究者と展覧会を企画すれば,業務では専門的で高度な対応を求められる。学芸業務が分業化ではもはや対応できず,専業化の道を歩む必要があると考えたのは宿命的なプロセスであった。今の日本の現状では,欧米社会で出来上がった修復保存の理念を持ち込もうとすると,まだ障害がある。技術や理論は欧米の合理的な考えに碁づいて,理論から実践に至るシステムが形作られているにも関わらず,H本ではこれが実際の現場では無視されたり,曖昧な状態で放置されるのである。論理的思考が国民性に見当たらないことも原因になるが,行政監督官庁や美術館の仕組みや学芸員の理解の現状とかで,すなわち修復技術も理論もその本質があっても生かせない事態が生じる。修復保存の業務は国公立美術館において制度として機能する必要がある。《修復保存部門の組織化》欧米の美術館で西洋美術館程度のコレクションの総数(絵画約360点,彫刻約60点,素描版画約1,800点)では各1名の学芸員と学芸課長の4名程度で,これに所蔵品課とでも言うべき修復技術者が各専門で3名,登録管理(レジストレーション)1名,司なれば美術館に付属しても独立性が高く,庶務などを持つことになる。他に額縁技術者,展示係(わが国では日通やヤマトが外注対応している),木工・金工係(展示材等を準備する)などの専門技術者を内部に置いている。先に述べたように欧米での専業化の歴史は早く,個人主義も早くから確立しているように,少なくとも英語圏では各専門の責任や権限も確立している。日本の美術館が今後,新しく修復保存担当者を採用するときには,少なくとも3年以上の技術,理論の専門教育を受けている修復技術者を基準とすべきである。(現状では国内で一人前になれないので海外で訓練を受けてきてもらうしかないが)資格制度は避けて通れない将来の課題である。その時は,独学で修復保存を勉強しましたは認められないだろう。何故なら実際の「物」に触りながら練習するなど不届きであって,倫理を教える指導管理不在の技術など破壊に過ぎないと言えるからである。資格は技能のレベルや適切な処置を保障するものでなくてはならない。それと修復保存担当者は美術史系の学芸員が不得意とする肉体労働や技術労働を代-512-

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