② 寛政改革下の美術界の動向Trend of Art circles under the Kansei Reform 招致研究者:ロンドン大学SOAS助教授ティモシー・スクリーチ報告者:同上申請者:学習院大学教授小林期間:1997年1月1日〜2月28日私のプロジェクトは寛政年間(1789■1800)画壇の研究にある。この時代は美術史においてたいへん豊かであったということは昔から認識されていた。現代において寛政年間のある作品は,日本美術史の流れの中でのピークであるといわれたこともあり,また西洋では19世紀半ば頃からその時代の美術やそれ以前の天明年間(1781■88)の美術が日本美術の代表であるとみなされている。この時代の美術作品の幅は広かった。例えば浮世絵,文人画が盛んになり新派である長崎派も登場した。禅画が復活し,絶滅の危機にあった土佐派と狩野派,そしてそれらの文派であった住吉派と京狩野派も甦った。その上「奇人」曾我篇白と伊藤若沖も存在した。寛政画壇ほど興味深いものはないであろう。学問的に様々な解釈が存在するのは当然であり,私の恩師である学習院大学の小林忠先生の大変優秀な著作はとても勉強になった。画廊やオークションの会場でも,この18世紀後半の美術作品はとても人気があり,またこの時代の多くの作品が現存するためコレクターが収集することができ,そして日本で最近次々とオープンした美術館もこの時代の作品を中心としてコレクションをすることができた。私の目的はこの時代における問題を一つに絞って取り組むことにある。それはアカデミズムの力であり,現在まで研究者は比較的それに注意を払っていなかった。しかし一般的に寛政の改革は松平定信の権力の強さで知られている。より自由で国際的な田沼の時代が終わり,この改革は幕府の経済問題を解決する試みだと歴史家達は取り上げている。ただし私はこの改革を図像学上の乱れを無くす試みであると考える。というのは,幕府が庶民の前での絶大な自已表現力を失ったためである。この損失を取忠-528-(Timothy Screech)
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