鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
549/590

③ フランクフルト工芸美術館所蔵奈良絵本の調査研究Research on "Nara-Ehon"、VoretzschCollection, of Frankfrurt applied art museum 1959年,フランクフルト工芸美術館は,ウィルヘルム・マイスター教授の仲介によ18世紀にかけての貴重な作例によって構成されている。25点とかならずしも大部のコ報告者:成城大学文芸学部教授佐野みどり期間:1996年7月15B■ 7月24日派遣国:ドイツフランクフルト工芸美術館所蔵って,大型美麗本など25点の奈良絵本からなるフォレッツィ・コレクションを購入した。エルネスト・アルツール・フォレッツィ博士(1868-1965)は,アジア諸国駐在の外交官を務める一方,インド,中国での考古学調査に参加し,また1926年にはルイス・フロイスの『日本史』の独語版を刊行している。このコレクションはフォレッツィ博士が,1928年から1933年にかけ京都で蒐集した個人コレクションであり,17世紀からレクションとは言えないが,奈良絵本全盛期の美麗かつ可憐な様式を伝えるくさよひめ〉<横笛〉くさがみ川〉といった一連の揃い本,六点を数える<文正草子〉諸本,肉筆本の現存作例が稀である<法妙童子〉,コレクション中,もっとも早い作期のく熊野の本地〉,江戸前期から中期への様式変遷を示すくしつか〉<秀郷〉など,いずれも厳選された作品からなるもので,注目すべき海外奈良絵本コレクションである。さて,このフォレッツィ・コレクションは,海外の奈良絵本コレクションとして名高い,アイルランド,ダブリンのチェスター・ビーティー・コレクションと相前後して形成されたことになる。かたや成功した鉱山経営者の美術蒐集家,かたやアジアの専門家という二人の心を捉えた奈良絵本の魅力が,まず第一に華麗な細密装飾画という点にあったことは想像に難くない*が,奈良絵本の持つ具体的で生き生きとストーリーを語り出す性格にも,惹きつけられたのではないだろうか。*アルフレッド・チェスター・ビーティー卿の初期蒐集は,ムガールのイスラム細密画であった。奈良絵本解題1996/7/17■7 /24調査-539-

元のページ  ../index.html#549

このブックを見る