鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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1) 肖像館のようなものにする術を心得ていた。そこには人間と事件と行為と衣装と劇場と俳優の真実に息づくイメージがある。50万フラン以上の金額がこのすばらしい挿し絵にふんだんに注ぎ込まれた。……(こうして)近代社会の基礎を築いた国民的運動の最良の歴史が,主題と著者と読者にふさわしい挿し絵によって,これまでそれに欠けていた補完物を得ることになるのである。」このように鳴り物入りの宣伝で1868年版『フランス革命史』に付された挿し絵とは,ではどのようなものであろうか。報告者はパリ国立図書館にこの挿し絵の内の何点かの複写願いを出しているが,残念ながら現在までにその返答を得ていない。したがってここでは個々の挿し絵についての詳細にわたる分析は避け,数百点の挿し絵全体の概観を試みるにとどめたい。の挿し絵について(2)挿し絵の各タイプについて各章には2点から7,8点の挿し絵が付されている。挿し絵のタイプとしては,多い順に,その章に登場する人物の肖像,語られている事件の情景(複数の人物が登場),語られている事件の舞台となった無人の風景(建築を含む)がある。各章の冒頭と最終ページに,口絵とカットが付されていることもある。それぞれのタイプの特徴は以下の通りである。1人の人物が一つの額縁の中に描かれた単独肖像画,2人の人物が対称形の額縁の中に描かれた一対の肖像画,3人ないし5人の人物が枝状に連続した別々の額縁の中に描かれた集合的な肖像画の3種類がある。5人の人物の集合的肖像画の場合、はページ大であるが,他はページの半分から3分の2はどの面積を占める大きさである。構図は胸像,半身像,全身像とさまさ‘まである。中にはジョゼフィーヌ・ボーアルネ像がジェラールの作品の意匠を借りているように,既存の肖像画を下敷きにしている場合もある。額縁の意匠も多様である。たとえばデュ・バリー夫人の額縁がプッティ,薔薇の花冠,蔦の葉などをあしらった「ロココ風」,ボナパルト将軍のそれが古代風の彫像を模した2人の女性像が勝利の月桂冠を掲げ,下部にブナ(フランス人民の象徴)の枝,Louis Blanc : Histoire de la Revolution Franraise, Paris, Figaro, 2vols, 1868. -556-

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