2)事件の情景シャルロット・コルデーのそれが獅子面やブナの枝をあしらった古代風のデザインで,上部に剣を刺された半裸の死体というように,人物の地位やキャラクターと額縁の意匠が関連づけられる場合もあるが,同一の意匠の額縁がしばしばくり返して用いられていることもあり,関連の見いだされないことも多い。古代風の彫像を模した女性像があしらわれている額縁が何種類かあるが,何かの寓意像と思われるこれらの像の大部分は,「怒り」,「糾弾」の表情を浮かべている。彫像の他にも,紐,葉,武具,獅子面,花綱などの古代風装飾モチーフによって多くの額縁か構成されており,それに加えてフリジア帽,束枠,水準器,自由の木,しゅろなど,革命関連ないしフリー・メーソン風のモチーフがときどき用いられている。石板にLOI,LECまたはG(Legislation= 立法?語の途中で他のモチーフで石板が隠されている)と記されているモチーフが用いられている額縁もある。額縁なしで擬紙葉が描かれ,人物像がその紙葉に素描されているように見せている例もある。第2巻では,壇上で演説するマラーなど,額縁を用いずに背景を場景化している例が増える。肖像画にくらべると数は少ないが(75点),いうまでもなく当時の読者にとっては歴史の場面をまのあたりに見せるものとして,もっとも強い印象を残したと思われる。後述するように挿し絵原画を描いた素描家と版画家とはそれぞれ多数に上るため,技術的・様式的な差異はあるものの,情景画全体を通じて感じられる傾向は首尾一貰している。小口木版という技法のゆえもあるが,原画,彫版ともにていねいでありながら,大型本の詳細な銅版挿し絵にありがちな威圧感はなく,親しみやすい。挿し絵に選ばれた場面はむろん本文に物語られている情景ではあるが,その表現自体はかならずしも本文のその部分の論調に一致しているわけではない。平明な写実主義によって,ときにやや感傷的に情景を描いている点では,19世紀の挿し絵入り本の常道を行くものであるとの印象を受ける。イッポリート・ド・ラ・シャルルリ原画・パンヌマッカ一彫版の情景画(この2人の組み合わせが挿し絵全体を通じて最多である)の場合には,情景が夜景のように見える特徴があり,ロマンティックな雰囲気が醸し出される。一方,額縁,口絵,カットに見られるような,古代風つまり新古典主義的要素が入っている情景画は皆無である。先行する絵画などからの翻案はほとんどないと思われるが,ダヴィッドに関連づけられる例は二,三見られる。まずくジュ・ド・ポームの誓い〉は,ダヴィッドの有名-557-
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