3)風景または建築4)カットな素描の模写といってもよく,<マラーの死〉は,ダヴィッドの油彩画の構図を左右逆転させてその向こうにシャルロット・コルデーの逃れてゆく姿を描いたものである。さらにく憲法承認の祭典〉は,ダヴィッド演出の1793年のく8月10日の祭典〉の際にバスティーユ跡地に据えられた,エジプト風の「自然」の像を描いている。くバスティーユの眺め〉,<トリアノンの眺め〉,<リュクサンブール宮殿〉,<タンプルの眺め〉,<トゥーロンの港〉など,物語られている事件の舞台になった場所が,パノラマ風に広い視角で,地誌画風に詳細に描かれている。明暗の差が強い場合が多く,その結果ロマンティックな景観画に見える。各書の最初のページには口絵,最終ページにはカットが必ずあり,章の最初と最終ページにも口絵やカットがある場合が多い。第1巻の最初の各種序文の前後にも口絵やカットが付されている。口絵とカットの大部分は装飾性,形式性を重んじた新古典主義風のものである。前書き(プレファス)の口絵としては,クリオ(歴史の女神)の像が登場する。月桂冠をかぶり,書字板に文字を書きつけるという伝統的なアトリビュートとともに,勤勉を意味するランプ,時の流れを意味する砂時計などが女神の背後に描かれている。他に目立った口絵としては,第1書第8章「国民議会」の,古代彫像風の群像構成のものがある。右手に宝角,左手にオリーヴの枝を持った有翼女性の周囲に,さまざまなアトリビュートを持った老若男女9人の人物を配したこの口絵は,全巻を通じてくり返し用いられている。第7書第1章「1791年の選挙」の口絵も同様に古代彫像風の群像構成で,中央に「正義の手」(フランスの支配者の象徴の一つ)を持った女性が立ち,周囲に寓意的人物が配されている。口絵には,第1書第4章「首飾り事件」のロ絵の首飾りや宝物など,章の内容に関わる品物や場景を描いている例もある。最終ページのカットには,寓意的人物像と装飾的モチーフとの2種があり,いずれも本文の内容との関わりは希薄である。前者の例としては,DROITORDRE PUBLIC と記した枝を手にし,足下にLALOIの文字と天秤(正義,法の象徴)が見える古代風彫像を模した女性像,蛇を持って鏡をのぞき込む女性すなわち賢明の寓意像などがあり,後者の例としては,鷲,豹,獅子,などの動物やグロテスク・マスク,プットー,兜,果物や野菜などがある。-558-
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