鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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作者について大多数の挿し絵には,原画の描き手と彫版師の名が記されている。それぞれ全巻で紙数の都合上省略する。画家として名が知られている原画作家としては,ラッフェ,クーデ,フィリッポトーなどがいる。結論以上に概観してきたル・ブラン『フランス革命史』1868年版の挿し絵は,動員された芸術家数,制作のていねいさ,経費,数,ほとんどすべての挿し絵が新たに制作されたものと思われる点(二,三は1865年版の挿し絵を再利用している)などを含めて,分冊形式の販売で特に豪華本ではないにしては,かなり大がかりな企画に基づくものであったと結論してよいであろう。挿し絵の性格自体は,口絵などの改まった部分や,額縁,カットなどの装飾的部分には伝統的(古典主義的)な擬彫像やモチーフを多用し,物語的興趣をそそる情景画においては,平明な写実主義に明暗の強調や感傷的な表現によってロマンティックな味付けを施すなど,19世紀の挿し絵入り本の常道を行くものである。この挿し絵には近代的な意味での芸術的個性はないが,それだけにかえって,19世紀の公衆がフランス革命の視覚表現に何を期待したかを明確に浮き彫りするもののように思われる。報告者はこの研究を,19世紀の視覚領域におけるフランス革命観研究のーケーススタディとして位置づけたい。は20人前後にわたるが,一人一人についての詳細は,出版業者に関する考察とともに,-559-

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