その他美術研究の分科会の他に,美術史家をとりまく社会的,経済的問題を議論するサテライト・ミーティングが二つ行なわれた。また,会場ロビーでは,コンピュータ・ネットワークによる情報システム,画像データ・ベースに関連するブースが設置され,その機能や今後の計画などについて説明が行なわれた。ユトレヒト,ハーグ,オッテルロー,ロッテルダムなどへの見学会も実施された。学会の特色および研究動向今回の国際美術史学会においては「記憶と忘却」というテーマに沿って,美術史の歴史記述の問題,美術館,コレクション,記念碑といった記憶装置の問題,さらにはデジタル画像の問題などが論じられた。ホロコーストの問題を扱った発表が多かったこと,ゲイ・アート・ヒストリーに関する発表や,デジタル画像の問題を本格的に論じた発表がいくつかあったことなども,新しい傾向としてあげられる。従来の国際美術史学会では,開催地の美術に関する分科会を設けることが多かったが,今回は「記憶と忘却」というテーマを中心に据えたためか,ネーデルランド,オランダ美術をとりあげた分科会は特に設けられなかった。15世紀フランドル,17世紀オランダなどは研究者層も厚く,レベルの高い議論が期待できただけに,残念に思った研究者も多かったのではないだろうか。前回の学会(1992年,ベルリン)では,コンピュータはまだ美術史研究の領域にはあまり入り込んでいない感じだったが,今回,デジタル画像やコンピュータ・ネットワークなどが美術史研究においてすでに本格的実用段階に入りつつあることを実感させられた。会場ロビーには,ゲッティー美術史情報プログラム(AHIP)によるインターネット情報システム,オランダ美術史資料編纂所(RKD)による画像データ・ベースおよびネットワーク・システム,オランダ美術史関連図書館情報システムのブースなどが設置され,それぞれのシステムやその使用法について説明が行われた。ちなみに,学会の発表内容を収めたCD-ROMも参加者に配布されることになっている。ポスター・セッションは理科系の学会などではすでに定着した発表形式で,美術史学会では初めての試みであった。多くの分科会を抱える学会の場合,口頭発表の時間が重なって聴きたい発表が聴けないということがしばしばあるが,ポスターの場合その問題は解決され,情報交換などもスムーズに行なえる。限られたスペースでのパネ-561-
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