鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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公開を始めている。なお,これらの諸事業の成果の一端は,鹿島美術財団と東京大学文学部の共催になる美術講演会「美術史学とデジタル画像」(於東京大学,平成8年11月30日)の際に,講演と討論の資料として紹介されている。2)所見本年度の調査研究から明らかになったのは,今日のデジタル技術は,静止画像であれ動画像であれ,また音声であれ画像であれ,およそ考え得るところのあらゆる期待に応え得る水準に達しつつあるということ。少なくとも,情報科学的技術という点においてはそうである。したがって,こうした技術革新が,ミュゼオロジーやミュゼオグラフィーの将来に,あるいは美術史研究の将来に大きな可能性をきり拓きつつあることは疑いを容れない。しかしながら,博物館の事業や美術史研究の現状を顧みたとき,この先端技術の利用について多くの問題点が厳として存在することもまた事実である。たとえば,博物館や大学などの公共機関が利用者のニーズに充分応え得るようなマルチメディア・システムを施設内に導入しようとすれば,かなりの先行投資が必要となり,またそれらの運用や維持に携わる人員も新たに確保しなくてはならない。国内の博物館や研究所でこうした条件を十分に満たし得るところは限られており,また実際にそれを果たし得たところで,画像データベースやデジタル・アーカイヴを構築するため膨大な時間と役務を長期間にわたって確保できるところとなると,事実上皆無ともいえる。したがって,デジタル技術利用の最大の課題はコスト・パフォーマンスにある,と約言できる。この問題は容易に解決しがた<,Pro-Photo CDの採用など既製のデジタル入カシステムを利用するというのも一策であろうが,それでも一定量のデータを取り込むまでに相当の負担を覚悟しなくてはならない。そこで一つの考え方であるが,フランスやイタリアでは博物館や美術館が展覧会を組織するさい,同時に出品物のデジタル情報化を並行して行うという方法を採っている。そうすることで,展示事業を推進するなかで自ずとデータベースが構築されて行く仕組みである。データベースの構築にあたっては,それを個別的な事業として独立させることは難しい。ならば,それを特殊化せず,研究や展示を推進するなかで,同時並行的にそれを実行するという方法がもっとも現実的なのではあるまいか。フランスのデジタル情報の利用度の高さ-578-

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