鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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② 彫りの相違徴に相違があるので,左右の彫り手が異なると思われる。① 材の構成縦材を数枚寄せて造る。寄せている材はおそらく8材と思われる。しかしこれらを均等に寄せているのではなく,中央を境にして右3材,左5材となっており,左の方が中央部分にあたる1材を除いて幅の狭い材を使用している。この相違は,おそらく実際の制作者が一者ではなく二者が左右を分担制作し,制作後合わせたためと思われる。左方の方が彫りが深く,切れが良い。したがって彫り上げられた線は締まって細い。右方は彫りの切れが悪く浅いので,全体に線が太く締まりがない。左方の方が美しい仕上がりである。③ 文様解釈の相違文様構成は基本的に左右対称である。これは左右各方が下絵(光背の半分であったと想定する)として使用した図柄が同一であったためと思われる。しかし彫り上げられた文様は,たとえば頭光部・身光部の(葡萄)唐草文様が,左方が波状の茎がはっきりし葉の表現が簡潔であることに対し,右方は葉が幅広く豊かで葉の翻る様子も複雑に表現している。また身光部の(葡萄)唐草文様の配置が左右対称ではなく同一である。これは下絵が前に想定したように光背の半分だけとすれば,左右方どちらかが下絵を裏返しに使用しなければならないが,意志の疎通があったのか,それをしなかったためと思われる。ただし身光部下端の翻る葉のみは左右対称となっている。④ 追い彫りの輻状文帯輻状文には追い彫りのため山と谷があるが,左方は山と谷の中間で終わっているので,上方が欠失して始まりが見られないがおそらく下方と同様に中間から始めたと推測される。それに対して右方は山からあるいは谷から始めたらしく,出来あがって左右合わせたときに合わず下方では山を彫り直して辻悽を合わせている。(4) (葡萄)唐草文様まず本光背の(葡萄)唐草文様を観察記述する。身光部の文様は上部が左右ともに欠失している。下部から見ていくと,向かって右下の英形をもつ茎から始まり,茎は波状を描きながら昇って行く。基本的に山と谷の-82 -

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