鹿島美術研究 年報第14号別冊(1997)
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II 日本における葡萄唐草文様の変化中間に英形を置き,そこから反転させた茎の先に房(果実)あるいは葉をつける。右下の始まりの英形からも葉か反転して翻る。房は,現存部分では左右各二個認められるが,原則は山側に葉と交互に配置されているようだ。茎は左方は立ち上がりの一単位が少々間延びしているだけで山と谷をしっかりと界線につけて蛇行している。それに対して右方は最初の一単位の間のびがはげしく山や谷も界線から離れ茎の波状がしっかりしていない。そして反転する茎も茎ではなく翻る葉が主体となっていて波状のリズム感は感じられない。果実は粒のある房状を呈しているので,葡萄と考えて良いと思われる。ただし,葉は葡萄の自然葉ではなく宝相華のそれとなっている。頭光部の(葡萄)唐草文様も上部が欠失している。下部から見ていくと,反転する茎から翻る葉を背中合わせにしたものを中央として,それぞれ波状の茎を円形に昇らせる。左右の表現の特徴は身光部で見てきた特徴と同じである。左方は茎か一応リズムをもっているが,右方は茎の波の幅が一定せず,唐草文様の基本である茎のリズムの美しさを忘れているようだ。それに代わって翻る葉を大きく豊かに表現し葉先を茎に巻き付かせ複雑に仕上げている。果実は左方で一つしっかりした房が認められる。右方では四個それらしいものがあるが,内二個は房を裏側(蒻側)から見たのか葉の変形なのか見分けかつき難い。そしてその四個が身光部と同様に葉と一つおきの山側に配置されている。私は遺例の検討からH本における葡萄唐草文様の受容・展開を次のように段階づけたい。(1)初期的受容7C後半から8C初法隆寺(①〜⑤)関係に多い。① 金堂・天蓋の葺き返し板に描かれている。波状の美しい茎から翻る半パルメットの葉を引き延ばしてその先に左右に開く醇をもった房をつける。さらに房は分岐部や茎にもついている(7C後半〜末)。② 阿弥陀三尊及び二比丘鎚鰈像厨子。波状の茎の英形の分岐部から翻る茎の先に房や自然葉をつける(7C末〜8C初)。③ 五重塔心礎・金製舎利容器透彫。面状の唐草。C字形渦巻きをもつ半パルメット風の茎の先に房を着ける(7C後半〜末)。④ 橘夫人念持仏厨子・須弥座上椎下段。四葉半パルメット波状唐草の分岐部に葡萄-83 -

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