1400年代前半に制作された一枚刷り木版画も,紙に刷られた例が圧倒的に多い。だか2.ボードレイアン・ライブラリー所蔵本(Bodl.Auct. D. 4. 17 13世紀中頃イギ3.ジョン・ライランズ・ライブラリー所蔵本(Ms.1914世紀後半ネーデルラン4.大英図書館所蔵本(Add.38121 1400年頃オランダ)5.ウェルカム医学史研究所所蔵本(Ms.49 15世紀前半,おそらく1420■1450?ド刷りと羊皮紙刷りの双方が併存しているが,割合からいえば紙のほうが多い。またらといって必ずしも,紙が羊皮紙よりも安価で供給量も多かったと安易に結論することはできないが,少なくとも,木版画の性質上,羊皮紙よりも紙のほうがはるかに刷りやすいことは確かである。木の棒やヘラという素朴な道具を用い,裏面からこするという方法で刷っていた時代であればなおのこと,柔軟性に富み,湿り気を与えやすい紙のほうが適切な素材なのである。木版画および木版本に紙が頻繁に使われたのは,紙の普及と価格の問題のみならず,刷りの技術も密接に絡んでいたことはここで強調しておいてよいだろう。いずれにせよ,彫り作業に手間がかかり,印刷本の二倍の紙を必要とするのだから,経済効率の面でいうならば,決して割のよい商品ではなかったのである。木版本『黙示録』の図像は,先行する写本に多くを負っている。縦長の頁を上下に二分割する方法も手写本の形式を踏襲したものだし,場面設定や個々のモチーフにも類似する表現が見受けられる。類縁性が認められる例として次のような写本が指摘されている(注10)。1.ピアポント・モーガン・ライブラリー所蔵本(M.52413世紀中頃ロンドン)リス)ト?)イツ,中部ライン地方?)(注11)これらと木版本に共通するのは,画面が1頁につき上下二分割であることのほか,5.を除きほぼ92■96場面からなり,場面設定が近似していること,個々のモチーフに類似するものが存在すること,などである。とはいえ,かなり隔たりが大きい図像も含まれており,木版本が首尾一貫して模写の手本としたとみなせる写本は今のところ見つかっていない。この場で詳細な比較検討をしている余裕はないが,とりあえず結論のみを記せば,こうした13世紀から受け継がれてきた黙示録の場面設定と図像表現はもとよりそれ以前の写本をも踏まえていることはいうまでもないが-92 -
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