① スキファノイア宮殿「12カ月の間」装飾壁画におけるボルソ・デステのローマ旅行(1471)の記憶研究者:東京大学大学院人文社会系研究科博士課程京谷啓徳はじめに本稿の目的は,スキファノイア宮殿「12カ月の間」装飾壁画中,南壁面右端に描かれ,従来論じられることのなかったーモチーフの典拠が15世紀当時ローマで目にすることの出来た古代遺品に求められることを指摘し,その図像がスキファノイアに描かれ得た背景を考察することである。南壁面右端の区画は極めて保存状態が悪く,下半分は現在完全に失われている。上半分も劣悪な保存状態である〔図1〕。当壁画において現状からは描かれたモチーフの識別が困難な部分の図像を考察するに当たり,ジュゼッペ・マッツォラーニ(1842-1916)が前世紀末から今世紀初頭にかけて行った模写に基づいて制作され現在フェッラーラ市立博物館に所蔵される一連の石版画はたいへん有益である。南壁面右端の区画は,マッツォラーニが模写した時点において既に剥落が著しかったようではあるものの,本稿の対象とするフリーズ部分に描かれたモチーフに関しては,ある程度何が描かれていたかを認識可能である〔図2〕。ー,南壁面右端フリーズ部分に描かれた古代モチーフとその典拠マッツォラーニの模写からこの最右端の区画に何が描かれているか見てみよう。描かれた二本のピラスターの間の空間は,ほぼ中央でエンタブラチュアによって上下に二分されている。現在完全に失われているエンタブラチュアより下の部分には,列柱が描かれ,その前には人々が集っている。エンタブラチュアより上の部分には,剥落が著しいものの,緑の地色に植物模様をあしらったタピスリーによって背面が閉じられた空間に,数人の人物が描かれている。下の場面に描かれた列柱のコリント式柱頭に支えられたエンタブラチュアは,古代建築のオーダーに忠実に,アーキトレーヴ,I.「美術に関する調査研究の助成」研究報告1. 1997年度助成-1 -
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