鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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acerra(宗教儀式用の香箱)」は蓋の開く角度からフリーズEである。次いで「ローフリーズ,コーニスから構成されている。その中でとりわけ目を惹くのはフリーズ部分である。何故ならそこには明らかに古代的ないくつかのモチーフが描かれているからである。すなわち,このフリーズには中央のブークラーニウムをはじめ,紬先や艦,錨や櫂など古代ローマの軍船に関係するモチーフ,および古代の宗教儀式に用いられた祭具が描かれている〔図3〕。筆者はスキファノイアに描かれたこれら極めて特徴的なモチーフの直接の典拠が,当時,ローマのサン・ロレンツォ・フォーリ・レ・ムーラ聖堂にあり,現在ローマのカピトリーノ美術館「哲学者の間」に所蔵される六点の古代フリーズ断片(所謂「サン・ロレンツォのフリーズ」)に施されたレリーフであることを指摘したい〔図4〕。六点の断片はすべて同じ高さ(0.59m)で幅は1.80mから2.47mとばらつきがあるが,幅の狭い四点には古代の軍船の構成モチーフおよび宗教祭具が描かれ,それより幅の広い二点には宗教祭具のみが描かれている。スキファノイアのフリーズには9つのモチーフが確認可能である。ここで左から順にそれぞれのモチーフに対応する,サン・ロレンツォのフリーズ断片中のモチーフを指摘していこう(六点の「サン・ロレンツォのフリーズ」には便宜上AからFの記号をふった)。スキファノイアのフリーズ左端の「錨」はフリーズAに見える。次いで「アプルストレaplustre(湾曲しリボン状の装飾の付いた船尾)」はフリーズA,剥落部分を挟んで右の「ケーニスクスcheniscus(鵞鳥の頭部をあしらった船尾装飾)」もフリーズAからのものである。中央の「ブークラーニウムbucranium(牡牛の頭蓋骨を表した装飾モチーフ)」はすべてのフリーズに見出され,その右の「アケッラストルムrostrum(船嘴装飾)の付いた紬先」はフリーズA。その右の「櫂」もフリーズA,「アプルストレ」はフリーズC,そして右端の「アフラストンaphlaston(船尾の先端部分の装飾)」もフリーズCのそれに対応する。このようにスキファノイアに描かれた古代的なモチーフはすべてその典拠をサン・ロレンツォのフリーズ中に見出だすことが出来る。二,所謂「サン・ロレンツォのフリーズ」一受容史とスキファノイアにおける引用の意義上述のようにスキファノイアの壁画にローマ,サン・ロレンツォ・フォーリ・レ・-2 -

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