すべき存在であったと言える。最近のカラヴァッジオ研究の注目すべき動向のひとつとして,これまであまり知られていなかったカラヴァッジオのパトロンと作品の図像の関係を明らかにしようとする研究が盛んになってきたことがあげられるが,そのような研究の成果によっても,上に触れたカラヴァッジオの特性が,ますます浮き彫りにされてきたように思われる。以上の点を勘案するならば,当然「マドンナ・デイ・パラフレニエーリ」研究においても,注文主と考えられるパラフレニエーリ同信会のことが,もっと調査されてしかるべきだと考えられる。本研究の出発点はまさにこのような考えにある。今回の報告書の内容は平成8年夏から秋にかけてと平成9年夏のローマにおける現地調査に基づいている。平成8年の予備調査においては,パラフレニエーリ同信会代表のP.ストリーニ氏(Prof.Pietro Strini)に貴重なご教示と資料の提供をしていただいた。ところが,報告者が調査したいと考えていたパラフレニエーリ同信会古文書館は長らく閉館中のうえ,ストリーニ氏によると「マドンナ・デイ・パラフレニエーリ」に関するドキュメント(全て公刊済)は既に同古文書館にはなく,ヴァティカンに移管されたらしいとのことであった。また,同古文書館が所蔵していた他のドキュメントの多くもヴァティカンに移管されてしまった上,残存のドキュメントは未整理の状態で閲覧できる状況ではないということであった。報告者はヴァティカンにおいて同同信会関係のドキュメントを閲覧すべく,平成9年にはヴァティカンにおける調査を計画していたが,あいにく報告者がヴァティカン古文書館の夏期休暇にあたる8月にしかイタリア滞在が果たせず,この調査は平成10年以降にもちこされることになってしまったことをここに報告しておく。パラフレニエーリ同信会に関わるドキュメント以外の資料の調査は,ローマの国立図書館,パラッツォ・ヴェネーツィアの国立考古学・美術史図書館およびパラッツォ・サピエンツァの国立古文書館において行い,本稿のとくに第II章の内容はそれらの資料がもととなっている。I 問題の所在(1) フィジーノの「蛇の聖母」と聖アンナ像はじめにも述べたように,1569年に教皇ピウス5世によるロザリオについての教皇勅書(bolla)をそのままイメージ化したものと考えられるアンブロージョ・フィジーノの「蛇の聖母」(現ミラノ・サンタントニオ・アバーテ聖堂蔵)(1581■84年頃)-132 -
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