⑯ 『平安人物志』に登場する画家の研究研究者:北海道大学文学部助教授田島達也1 『平安人物志』について『平安人物志』とは江戸時代中期から末期に至るまで京都で発行された人名録である。今日,下記の九版が知られている。明和五年(1768),安永四年(1776),天明二年(1782),文化十年(1813),文政五年(1822),文政十三年(1830),天保九年(1838),嘉永五年(1852),慶応三年(1867)天明から文化までが大きくあいているがそれ以外はほぼ十年程度の間隔で発行されている。実際の本に当たってみると版が同じでも採録される画家が微妙に異なる。本来それらを校合すべきであったが,今回は『近世人名録集成』第一巻(勉成杜,1976)に依拠して検討を行っている。明和,安永,天明の各版(以下前期三版と呼ぶ)は一巻一冊だが,文化以下の版は三巻に付録,追加が付いて一冊の形式になる。選者はすべて弄翰子とあるが,何者であるか不明。百年の長期にわたることから,一人の人物とは考えられない。その他詳しい書誌情報は『近世人名録集成』に譲る。本書が作られた目的および編集方針については,各版の「凡例」に記されている。まず最初の版である明和五年版の凡例を引用しよう。凡例此編之作為他邦人遊学於京師者輯焉凡姓名註字号且記居所及俗称以便諸生投刺芙凡姓名目次惟従聞識之前後而已。非必評学術優劣也此編所輯者住於京師耳若遊事於他国者与暫寓於京師者則除之編中如所遺漏者他日応追補已初めに,この書は他国から京都に来て学術や諸芸を学ぶ者のために作られたことが宣言される。姓名,字,号,住所,俗称の各データからなり,出てくる順番は編者の耳にした順で,学術の優劣を表すものではないという。京都に居住している人物のみ記し,一時的に京都を離れている者や,他国から来て京都に立ち寄っている者は除くという。基本的な編集方針は以後の版でも継承されるが,「為他邦人遊学於京師者」という(1) 『平安人物志』とは-165-
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