鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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項目は次の安永四年版以後削除されている。おそらく当初の目的は明和五年版に記すとおりであったが,その目的を超えて広く利用されるようになったことを反映すると思われる。画家も数多く収録されており,近世絵画研究上,欠くことのできない資料となっている。しかし,登場する延べ822名におよぶ画家は,今日ではむしろ忘れられた人物の方が多く,全ての画家の素性が判明しているというわけではない。また,従来は特定の画家研究の際に,『平安人物志』に「出ている」ということだけで満足する傾向があったが,ここに出ているということは,その画家にとってどういう意味を持つのか,ということが問われなければならない。そのためにも『平安人物志』自体の美術史的位置付けが改めて問われなければならないのである。(2) リストの作成この研究のために第一に行ったことは,『平安人物志』に登場する画家をリストアップすることである。『平安人物志』自体が画家のリストであることから,この作業は簡単なものに思われた。しかし実際には一つの面倒な問題を解決しなければならなかった。それは,『平安人物志』に現れた一人一人の画家を同定し,見出しとなる一つの名を与えることである。『平安人物志』の表記は,大きく分けると三段からなっている。一段目に姓名,ニ段目に字や号と住所,三段目に俗称と呼ばれる名前が記される。基本的な考え方としては,画家としての名前と,生活上の名前を分けるという発想から来ていると見られる。この人名録が,地方から京都へ遊学するものの手引きとしても用いられたとすれば,実際に者を訪ねるときにこのような形式が有効であろう。ただ問題は,どちらをとっても今の呼び方と合わない場合が多いことである。そこで今回は仮に,画家辞典等にその名が見えないものについては,「俗称」のうちの姓+「号」という命名を行った。このように各々の画家に見出しとなる名を決め,各版ごとの重複を避けて一覧表を作成した(注)。これにより『平安人物志』に登場する画家の総数は395名となった。このリストをもとに各画家の資料の収集を始めた。ただし,この収集は個人で行うのは限界がある。今年度は京都文化博物館の平成十年度秋の特別展「京の絵師は百花線乱」展の実行委員会と連携し,相互に資料を補って研究に役立てた。-166-

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