鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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——特に最終章の意味を中心に一1 クロザ・コレクション② ディドロ『絵画論』の資料とテクスト構成について研究者:東京大学大学院人文社会系研究科教授佐々木健一〇研究の地平研究助成の対象となったわたくしの研究は,ディドロの『絵画論』の全般にわたる。テクストを翻訳したうえで,そこに詳細な注釈を施すことが課題だが,それを通して,この理論書の語っている現実,すなわち当時のひとにとって,またディドロにとって,絵画が何であったのか,絵画のなかの何が魅力だったのかを再構成することが,真の最終目標である。既に過去十五年余にわたって,この作業を少しずつ進めてきており,その仕上げの段階に入りつつある。この研究をわたくしは,徹底した資料調資に基づいて完成させたいと考えており,そのためになすべき主たることとしては,次の諸点がある。かの発言を具体的な美術史的背景のなかに置くこと,影響,またかれの独創的な思想を識別すること,かれる以前の1759■61,63, 65年〕や諸々の美学的著作,自然哲学,道徳哲学)を参照して,『絵画論』におけるディドロの発言の奥行きを測ること。このうちの(4)は大学の資料で不足はない。(3)になると海外の資料が必要となり,(1)と(2)については,オリジナルとの直接の接触が不可欠となる。1997年度は,従来より継続してきた訳と注解の作業は最終章を取り上げ,また鹿島美術財団の助成を得て,主として上記(1)と(2)の一環としてロシア(及びストックホルム)の調査旅行を行ったので,この両面について,現時点で具体的に書きうる範囲で以下の報告を記したい。今回調査地としてロシアを選んだのは,(l)と(2)を組み合わせて考えたからである。下記のように,ロシアは『絵画論』の最もオリジナルに近いテクスト資料のある場所(1) テクストの形成史を踏まえて,テクストを確定すること,(2) ディドロが観ていたはずの絵画作品やその周辺を幅広く渉猟し,『絵画論』のな(3) ルネッサンス以来の絵画論の歴史を概観し,先行する著作からディドロの受けた(4) ディドロの他の著作(特に展覧会評である『サロン』〔とりわけ『絵画論』が書-12 -

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