鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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⑳ カイロ・エジプト博物館蔵古代エジプトの絵入りの葬祭用亜麻布の現状調査2.カイロ・エジプト博物館所蔵の葬祭用亜麻布と保存状態研究者:比治山大学現代文化学部教授鈴木まどかはじめに古代エジプト美術の研究において,殆ど着手されたことのない銘・絵入りの葬祭用亜麻布の本格的研究を進める中で,研究資料として使用困難な亜麻布の保存状態が明らかになった。そこで平成9年度の第1次現地調査においては,カイロ・エジプト博物館にて所蔵の絵入りの葬祭用亜麻布の現状調査として,同館,亜麻布のリストを作成し,保存状態を調べて,将来保存処置を施す際の優先順位を定めることが出来るような基礎資料(写真撮影を含む)の入手を目ざした。なお,現地調査に先立って,亜麻布の保存修復に関しての長い経験と実績を持つ,ロンドンの大英博物館保存修復部門,パリのルーブル博物館古代エジプト部門修復部,スイスの古代布修復研究機関の草分け的存在で世界的評価を得ているアベッグ財と情報の交換を行い,これらの研究機関で今までに実施された保存修復関係の報告書,参考資料を入手した。第1次現地調査で,デール・エル・バハリ出土のアンクエフエンコンスの葬祭用亜麻布のクリーニングを実施し成功をおさめることが出来たのは,この折の諸機関との交流に負うところが大きい。平成9年度のカイロ・エジプト博物館での絵入りの葬祭用亜麻布の現状調査を以下1.第21王朝治下の絵入りの葬祭用亜麻布の起源と研究の意義1.第21王朝治下の絵入りの葬祭用亜麻布の起源と研究の意義葬祭用亜麻布は,ミイラ化処置の完了した遺体を空気から遮断して保護するという実用上の役割をはたし,ミイラ製造に欠かせない必需品として大量に使用された。帯状と長方形状との2種類の形状の布に大別される。ミイラは,まず帯状の亜麻布製包団(AbeggStiftung)を歴訪して,古代エジプトの亜麻布の保存修復についての意見の4項目に分けて報告する。3.アンクエフエンコンスの葬祭用亜麻布のクリーニング4.今後の課題-214-

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