⑳ オルドス青銅器文化における動物意匠とその周辺—青銅飾板を中心に一研究者:神戸大学大学院文化学研究科博士課程はじめにユーラシア北方ステップ地方では,紀元前一千年紀を中心とした時期に,動物意匠が広く流行したことは,古くから研究者らの注意を惹き,度々考察の対象となってきた。オルドスとは,このステップの東端,中国の北西部で大きく屈曲する黄河と万里の長城とによって囲まれた地域を指す。この地域は,農耕文化と遊牧文化の遡返する地帯であり,いわゆるユーラシア北方文化,中国の華夏文化が緊密に交流しており,紀元前九世紀頃から青銅器文化が非常に発達していた。その動物意匠に関しては,長城沿線の諸民族が創造したのであるが,或いは他の地域から転入されたのであるか,それが大変複雑な問題である。これまで先学によって数多くの研究がなされてきたが,多くの問題が未解決のまま残っている。従来の研究は起源問題ばかりに偏重するあまり,動物意匠の様式変化を軽視し,又,動物意匠の生成,発展,消滅という脈絡から切り離し,何れも決定的な論拠を欠き,十分な説得力を持つに至っていないのである。オルドス青銅器文化における動物意匠の起源問題を分析するにも,まず,動物文様の分類,動物意匠の図像的変化と様式上の変遷ということに注目しておくべきであろう。本研究の目的はオルドス青銅器文化における動物意匠の時代区分と特徴について,ことにオルドス青銅器文化研究の考古学的段階から,実際の工芸品に即した美術史的な考察を加え,その動物意匠の典型的な図像と様式がどのように形成されていったのか,またどのように変遷をとげていったのか,更にその理由は何なのかを探り,オルドス青銅器文化における動物意匠の起源とその周辺との関係を明らかにしようとするものである。1.青銅飾板の時代区分とその動物意匠現在までに,オルドスとその周辺に青銅飾板を出土した遺跡は34遺跡であり,出土青銅飾板は計400位点(寧城県南山根石梓墓と小黒石溝石オ享墓の出土品を除く)である。(「オルドス青銅器文化における青銅飾板出土品一覧表」に参照)それ以外に青銅飾板に関する文献記録と,諸博物館・美術館の所蔵品は出土地,年代などが明確では杜暁帆-257-
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