鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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E型長方形飾板F型馬蹄形飾板相似し,いわゆる「北方ユーラシア文化」の広範囲で流行している。多数の飾板は底辺だけ枠がある。装飾文様の題材により,DI式虎羊・犬馬闘争文〔図幻,DII式鷹獣闘争文,DIII式遠征・狩猟文〔図9〕の三式に分ける。D型は比較的規範化された青銅飾板であり,その製作工芸も非常に発達した意匠になっている。オルドスとその周辺において,P形飾板は戦国晩期に出現されたと考えられる。長方形の枠の中に動物文様が装飾されている。出土量の多い種類である。漢時代に盛んであった。文様と装飾題材により,EI式二体動物文〔図1゜〕,EII式動物闘争文,EIII式二人格闘文,EN式捻体動物文〔図11ぶEV式怪獣文とEVI式龍亀闘争文〔図12〕の六式に分ける。E型の長方形飾板は突然に前漢中期に現われたようである。いままで発掘されたのはすべて漢時代に集中している。長円形と近似しているので,楠円形飾板とも言われる。型式と装飾題材により,FI式獣頭文〔図13ぶFIi走獣文〔図14〕とFIII式狩猟文〔図15〕の三式に分ける。F型の飾板と似ているものは,ロシアのイェニセー川の流域とベカアル湖地域でよく発見され,その中にFI式のスタイルと同じ獣頭文飾板が最も多い。F型は前漢中期から後漢晩期まで流行していた。以上述べたことから分かるように,各型の間には,直接の伝承関係がないわけであり,各型に各自の淵源があるのではないかと考えられる。最初に出現した飾板の類型は,A型とB型である。A,B, C, D, Eの五型の飾板は,前漢時代までに,すべて出現したのである。戦国時代から前漢晩期まで,すなわち紀元前五世紀から紀元前一世紀までは,中国北方青銅文化における青銅飾板が最も流行していた時期である。青銅飾板の成熟期(前漢時代)には,C,D, E, F四型の飾板が主として使用されている。西周晩期から後漢末期にいたって,時代の変化に伴い,青銅飾板の動物意匠が変わらざるを得ないが,遊牧民独特の文化として,およそ千年の間に,動物意匠においての基本的な認識と,共通の特質を持っていたことも明らかである。その基本的な認識と共通の特質について,まとめてみよう。デザインの面から見れば,青銅飾板における動物意匠の特徴は,第一に,動物の形を透彫風に,或は浮彫風に,輪郭的に重点をおいて表現することである。したがってそれはおおむね平面的であり,立体的ではな-259-

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