3.むすびオルドス青銅器文化における青銅飾板の動物意匠の分布,起源問題を検討したことによって,以下の二つの認識が得られた。一つは,西周晩期から後漢時期にいたり,中国北方長城沿線,特にオルドスとその周辺地帯で,青銅器文化の発生,発展に伴い,A型,B型及びC型における動物意匠が形成されたということである。それらの動物意匠は独自の特徴をもち,発生と発展の脈絡もはっきりとしている。この地域で,動物意匠が出現した原因は,今から3500-2500年前の期間に,気候と生態環境が激しく変化して牧畜業が農業経済から分離され,長城地帯で遊牧文化が誕生したことであると考えられる。中国北方長城地帯は,農耕民族と遊牧民族の文化の遊逗する地帯であり,スキタイ系文化,中原の華夏文化が緊密に交流しており,ただの東西,または南北の文化交流する中継基地ではなかったのである。二つは,青銅飾板が流行したのは,遊牧民の移動と密接な関連があると思われる。青銅飾板の動物意匠の最盛期(紀元前三世紀〜紀元一世紀)に,オルドスとその周辺は,ちょうど匈奴族が形成,発展した中心地域となった。『史記・匈奴列伝』などの文献記録によると,匈奴族の早期の活動地域は大漠以南のオルドス,河套および陰山地帯であり,秦皇漢武のときに,匈奴族の政治中心が次第に,大漠南部から大漠北部に移動して,外バカイルとイェニセ河の中流に至ったことが明らかであることがわかる。考古学の資料によれば,青銅飾板の分布は,匈奴族が活動した地域と一致している。匈奴族が西北部に移動したことにより,スキタイ系文化との交流がますます増えて,青銅飾板の動物意匠が更に多様になり,したがって,青銅飾板は広範囲で用いられたのではなかろうか。-263-
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