⑲ 敦煙莫高窟の弥勒経変相図の研究研究者:早稲田大学文学部非常勤講師齋藤理恵子敦煙莫高窟壁画中には,兜率天において説法する弥勒菩薩や,仏滅の五十六億七千万年後に兜率天より下生し,仏陀となって竜華三会の説法をする弥勒仏の姿を表わした弥勒経変相図が数多くみられる。このうち『弥勒下生成仏経』などに説かれる内容によって下生後の弥勒仏を表わした,いわゆる弥勒下生経変相図については早くから研究されてきたが,近年,兜率天における弥勒菩薩を表わした『観弥勒菩薩上生兜率天経』を典拠とする弥勒上生経変相図の存在が知られるようになった。さらに,従来,弥勒下生経変相図とみなされていたものでも,弥勒如来の上方に兜率天中の弥勒菩薩が表わされる場合が多いことが指摘されている(尾崎直人「敦燈莫高窟の弥勒浄土変相」『密教図像』2)。本研究は,このように多様な弥勒経変相図について,その画面構成をはじめ石窟内の配置や本腺との関係を含めて多角的に検討することにより,時代による変遷やその思想的背景を考察する上での手掛かりを得ようとするものである。1.隋の弥勒経変相図敦煙莫高窟において弥勒経変相図は隋以降に多くみられる。尾崎直人氏が指摘されたように,隋代の弥勒経変相図はいずれも兜率天中の弥勒菩薩を表わした弥勒上生経変相図である。そのうち図様が比較的明瞭で細部を確認できた四例について,その概要と石窟全体の構成を以下に記す(弥勒経変相図以外の図については主題名のみ記す)。く第419窟>西壁寵内:本尊如来践坐像。左右に比丘および菩薩立像各1体を安置する(以上5体塑像)。本尊左右上方に比丘立像各3体,下方に婆羅門像各1体(鹿頭梵志,婆薮仙)を描く。寵外:左右上段に維摩・文殊図,中段に比丘立像各3体,下段に菩薩立像各3体を描く。南壁上縁部に天人図を表わすほか,ほぼ全面にわたり千仏図で埋め尽くす。千仏中央に説法図。-333-
元のページ ../index.html#343