る。その上人物達は移動中で,手前の足が移る直前の瞬間を捉えているためその角度が斜めになっている。この中で,移動中の足の形は両足の間隔を無くすことによって違っているものの,他の特徴は「枯華微笑」の迦葉の足や阿難と見える弟子の足でも同じで,それぞれ裸足の姿を見せている伝禁山「十六羅漢図」の中の侍者達の足に非常に類似している。現在は,元時代の画家察山の作品として伝わっているこの作品が,本作品の制作当時には禅月筆の作品として知られており,その16幅のうち2幅の模写作品が現在東京芸術大学資料館と東京国立博物館に図柄を同じくしてそれぞれ2幅ずつ所蔵されている(注9)。中でも絵の状態からもっと古い物と見られる東京芸術大学資料館所蔵品の場合,画家は明らかではないが,その力強い描線などから狩野派系の画家のものと見られる。また,明治30年9月7日,島田友春から購入された一連の模写作品の一つとなっている事実から考えると,恐らく狩野派の粉本として描かれ,明治20年代に授業で使っていた教材だった可能性が高い(注10)。一方,東京国立博物館所蔵品の場合,春草の東京美術学校の同級生であった小林一意の模写作品で,明治29年6月5日に購入されており,東京芸術大学資料館所蔵品と同じ図柄であるが,例えば羅漢のイヤリングや侍者の袖の文様で輪郭に沿った胡粉の使い,錫杖や睫,などの細かい描写を見ると,この模写作品は原本をモデルにして制作されたと思われる。また,その点に関しては小林一意がその2幅を7日かけて描きる。明治30年4月にあった本作品の発表を前後にしてこれらの模写作品が制作され購入されたことを考えると,春草が本作品を制作するに当たって東海庵所蔵の「+六羅漢図」を参考にした可能性は十分に推測される。その他に古画模写と関係が推測される本作品のモチーフとしては釈迦の足があり,その形は「一字金輪像」模写作品〔図5〕の足の形と類似している。しかし,半珈訣坐しているその座り方は「一字金輪像」で見るような決まったパターンをそのまま写したため上半身とのずれが生じており,不自然さを感じさせる。更に注目したい人物として台座の後ろに立っている大梵天王(図6〕が挙げられる。画面の右へ向かって腰を傾けた屈斜形に花の盤を持っているその姿は,法隆寺壁画の人物描写と類似している。例えば,法隆寺金堂第一号壁の「釈迦浄土図」の向かって左側の薬王菩薩と比定されている脇侍〔図7〕や第六号壁の「阿弥陀浄土図」8円50銭を模写料として支払ったと書かれている『列品録』の記録からも明らかであ-343-
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