鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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⑪ 狩野一渓著『後素集』の校訂研究者:東京芸術大学非常勤講師北野良枝元和九年(1623)の跛文をもつ狩野一渓(1599■1662)の『後素集』三巻は,同時代に著された他の画論書の多くが画人伝であるのに対して,画題の解説書であるという点において注目される。『後素集』は,すでに坂崎坦編『日本画談大観』(大正六年刊)に国立国会図書館所蔵の2本と東京国立博物館所蔵の1本を校訂したものが掲載されているが,その解題に「何分にも誤字脱字多くして時に読下し得ざる個所あり,他日良本の手に入らん時を侯ちて訂正する所あるべし」とあるように,さらに多くの写本による校訂作業が望まれる。今回の研究では『国書総目録』および『古典籍総合目録』により国内の公立機関に所蔵されていることが確認できる12本の写本の校訂を行ない,近世絵画史の貴重な史料である『後素集』を原本により近いかたちに復元し,近世絵画史研究における基礎資料を作成するとともに,各写本の調査・校訂作業を通して得ることのできだ情報から,『後素集』をめぐる問題について若干の考察を加える。なお以下において今回校訂作業の対象とした12本を,所蔵先の名称により,京都資本(京都府立総合資料館)・群馬大本(群馬大学附属図書館新田文庫)•国会本(国立国会図書館)•島原本(島原図書館松平文庫)・筑波大本(筑波大学附属図書館)・東博本(東京国立博物館)・芸大本(東京芸術大学附属図書館脇本文庫)・東大本(東京大学総合図書館)・狩野本(東北大学附属図書館狩野文庫)と呼び,一箇所に2本が所蔵されている国会本・狩野本・島原本については,それぞれ完本をA,零本をBとして,国会A本,国会B本と呼ぶ。・校訂作業〔図参照〕各写本を併記するかたちでワープロに入力し,文節ごとに字句を比較して,校訂作業を進めた。各写本の入力に際し,原則として異体字は常用漢字に統一し,ワープロの第1.第2水準にない漢字については,■を入力し保留した。また各写本の字句を比較するにあたり,同じ言葉について,漢字と仮名が混在している場合は漢字を採用し,送り仮名に関しては,送りの多いものを採用した。仮名の種類については,今回-352-

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