鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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て詳細に比較した結果,図にあげた例にも見られるように,島原B本はA本よりもむしろ東大本に近く,送り仮名がひらがなである四本の関係を考えるうえで非常に興味深い。群馬大本の「唯授一人/河野善兵衛安道印/時享保元申歳八月下齢写しであると推測される。京都資本は完本ではあるが,奥書・蔵書印とも一切ない。国会B本には,「中川氏蔵」の蔵書印があるが,この印の主については不明である。以上,今回の調査・校訂作業を通して得た知見を記した。『後素集』の跛文には「此冊為門弟子」とあり,本来は一淫が弟子のために著したものと考えられるが,画題の解説書という内容は一漢の弟子や狩野派の絵師のみならず,画事に関心を抱くさまぎまな人々に広く受け入れられたようであり,石崎玄徳や堀直格,狩野亨吉らのほかに,所蔵主として田安家や島原松平家のごとき大名家の名があげられることも興味深い。なお今回の研究では,大部分の時間を校訂作業に割いたため,『後素集』本文に関する研究はなお不十分であり,これについては今後の課題としたい。写之/山洞治□兵衛安清/印」という奥書からは,群馬大本が印可の際に与えられたものの-356-

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