鹿島美術研究 年報第15号別冊(1998)
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葱・濃萌葱・薄茶などに色分けされているが,これは儀軌に示すところの身色に従ったものと解される。肉身の輪郭は現状黄色。顔貌は眉が二層になっており,上層が紺,下層が萌葱。目は瞳が紺で,瞳の輪郭は黄色。白眼は白で,目頭・目尻に浅葱を刺す。鼻や耳の輪郭は黄。唇は紅で,合わせ目が紺である。着衣は上半身に櫂福衣を着けるもの,あるいは条吊のみをまとうものの二種あるが,播襦衣は色彩も多彩で,留め繍による文様も各種施されている。例えば法波羅密菩薩〔図2〕をみると,櫂福衣の襟は白,肩口は紫地に黄の細糸で斜格子を割付け,この格子の中に花弁を白で散らす。胸及び腹部は浅葱地に黄で唐草文。袖は金茶地に黄・濃萌葱で花文,縁は浅葱地に黄で四つ目文,鰭袖は内側黄・外側黒とする。さらに条吊は表を薄茶・裏を萌葱とし,表には濃萌葱で花文を留め繍している。腰には腰衣・縁付きの裳をまとい,腰衣の上から裳の折り返しが出ている。腰衣・裳・裳の縁は綴・浅葱.濃萌葱・紫などで,裳には各種団花文,桜花文,向蝶文を留め繍している。火焙光背は基本的に,頭光・円光とも,内側から線・浅葱.濃萌葱・萌葱・黄・紫・白などをもちいた刺し繍・纏い纏・返し繍で帯または線の同心円状に表し,火烙は内側黄・外側金茶あるいは朱とする。最後に第一〜第三坪すべてに共通しているが,下部に蓮華座を有している。蓮華座は蓮托上面を濃萌葱あるいは萌葱の平繍とし,凸型を黄の留め繍で表す。蓮托の側面には,白・紅もしくは白・浅葱で薬を表す。蓮弁は輩澗繍で,内側より白・黄・萌葱(輪郭紅)のものと,白・薄茶(輪郭紺)のものが主であるが,薄紫・紫のものが一例ある。付属の納入墨書紙片にもあるように,複数の「縫師」の手になることは,作品に照らしても明らかであり,例えば蓮華座だけをとってみても,繍技にははっきりと差があらわれている。しかし総じて画風ということでいえば,目頭と目尻に浅葱をさす点,眉の上層を紺,下層を萌葱とする点などは,伝統的な仏画の画法にのっとっており,特に髪際線を萌葱とする点は,鎌倉仏画のそれに準じていることがわかる。肉身線も現状黄色を呈しているが,仏画の手法では朱線で描き起こすことから,朱が褪色した可能性が強いのではなかろうか。配色については,色数の限定されている刺繍であってみれば仕方のないことであるが,総体に明快な配色でグラデーションの意識は薄く,とくに蓮華座の蓮弁は2■ 3色の比較的あっさりとした最糊である。形態的には総体として容姿がややぼってりとした感じである。顔の輪郭は丸く横広くなり,眉や-404 -

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