3 構造ー山口•阿弥陀寺仁王像との比較一像造立が具体化する以前に,重源の脳裏に描かれていたことになろう。」と述べ,安置形式の変更はなかったと示唆する(注4)。仁王像は阿呼ともに各約3千個のヒノキ材のパーツに分かれるが,ともに10本の根幹材(いずれも心持ち材で,太いものでは約50センチ角)から本体の骨格が形成される。頭鉢の主要部(立脚を含む)は8材で,これに遊脚2材を斜めに接合する(U牛形の方が阿形よりも遊脚材が短い)。阿昨ともに礎石の上に直に載る材は主要部8材のうちの①番材(心柱)と遊脚材(阿形は2'p牛形は1)だけである(構造の詳細は報告書に譲る)。これらの根幹材は貫及び鎚によって組み付けられ,前後を貫く懸け木で南大門に固定されるが,根幹材に貰や懸け木を通す構造は明らかに南大門の柱を繋ぐ貫構造の影響下にある。ただし建築の貫構造と違う点は根幹材を繋ぐ貫がすべて緊結されるのではなく,ゆとり(遊び)を残すことで,特に緊結が必要な場合には楔を打ち込んでいる。このような根幹材の構造からみても,彫刻家(仏師)だけでなく,番匠の参加が銘記通り(阿形金剛杵矧木)確認できるのは注意される。さてこのような南大門仁王像と構造上の共通点を見い出せるものとして山口県・阿弥陀寺金剛力士立像が注目される。この像は,東大寺鎌倉復興のため俊乗坊重源が番匠物部為里・桜島国宗とともに大仏殿等の料材を周防国(山口県)佐波川流域に求めた関係で造営された阿弥陀寺山門に立つ仁王であり,境内は下流域の丘陵上にあって眼下に瀬戸内海を眺める地理的環境にある。この仁王像は従米より慶派仏師の手になる鎌倉初期の秀作といわれるものである。この阿弥陀寺仁王像の構造は阿呼ともに大略4本の各材が頭体部の骨格をつくり,これに遊脚の1材を斜めに当てる式になる(注5)。この構造は南大門仁王像と同じ仕口であり,遊脚側の基本材は腰上辺で短く切られ,その下に,足の角度に応じて遊脚材を傾斜させる。このような遊脚材の働きは,これまで南大門仁王像に限られると見ていたのだが,阿弥陀寺像にも確認されることによって,構造上,仁王像の一典型として理解できるようになったのである。すなわち,斜めに渡した遊脚材に上半身の材を載せる方式の仁王像は,材の制約のための便宜的な処置ではなく,これこそ大像制作を意図した構造技法のひとつではないか,という巨大像のエ法の問題に展望が広がるのである。-430 -
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