<H牛形〉4 修正個所仁王像は造立当初から大きな修正があったことは,修理途中から話題になったことで,これについて以下に整理する。<阿形〉① 左足を身体から前に出すように踏み出した。② 角度をつけて身体を斜め向きに,立脚を基軸に時計廻りに振った。③ 両腕の角度を下げ,右手は腎の角度もさらに開き,手首を腰より下方において金剛杵を低い位置で持たせた。④ 乳頭を外へ移動した。これを補足すると,阿形像は安置の間に据える時点で①②の調整を行い,踏み出した左足の力強さを強調した。阿形の背中が門の梁と平行ではなく,斜めになったことがそれを端的に語っている。左足が前に出て,あわせて身体が時計廻りに振られたことによる「くるい」は阿形像の修正の最大のポイントであったと考えられる。肩や腕の肉付けの補足修正は正面の位置のズレを補正するものであり,腕の角度調整(③)は肉付けの補足修正をより積極的に行わせたといえる。筋肉表現のひとつひとつの補足修正が何に起因するのか,具体的な指摘は単純ではないが,たとえば左肩については,肩がぐっと正面に廻ってきたので,肩上面に肉を足す意識が生まれ,薄い木片を二,乃至三層にわたって細かく貼りつけている。これは現場での修正変更が一度にとどまらず,何度も行われることを意味しており,巨像制作は施工段階を迎えた時,当然のことながら企画設計から離れて,現場サイドで臨機応変に計画変更が行われたことを証するものである。① 左腕の角度を下げ,右腕は上腕を短く詰めて臀を高く上げた。② 両手首の矧ぎ面にマチ材をはさみ,角度を調整した。③ 腕の振り上げの変化に伴い乳頭を外へ移動した。④ ③と同様に,胸・左腕外側等に肉付けを足した。これを補足すると,右腕の上膊が短くなったのは,肩の付け根と体側の間に挟んでいたマチ材が撤去されたことをいう。その理由には,北側の土壁に肘が当たったためという物理的事情も想定できるが,修正後の表現は下から見上げた場合,左右の腕の長短・太細の相違による「いびつさ」はあまり感じられず,むしろ巨像ならではのカ-431-
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